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2018年12月22日

100回目

気がつけば100回目の投稿です.ここを訪れていただいている皆様に感謝いたします.そもそも『JMPではじめる統計的問題解決入門』のサポートブログとして始めたので,ここまで続くとは思ってもみませんでした.書きたいことがそれほどあるわけでもないのですが,継続すること目指しました.毎週土曜日に書くと決めたのは,継続しやすいからです.不定期にするとどうしても途切れてしまうものです.特に無理をしているわけではないのですが,なんとか続いていているので我ながら感心しています.
ボツにした原稿を掲載したり,頂いたいご質問にお答えするなどの間をその週に読んだ本やニュースについての駄文でつなぐというスタイルが固定してきてからは,土曜日の朝,目覚めると「さて今日は何を書こうか」などと考えるようになりました.時間はあまりかけられないことも多いので,読み返すと文章が荒削りであったり,時としてロジックがおかしかったりする点も読み返すと見つけること珍しくありませんが,基本はブログという日記なので自分ではこれでよしとしています.
ここのところ『統計的問題解決入門』と関係ない話ばかりで恐縮していますが,本日は二つのお知らせがあります.一つは本書が重版になったことです.ありがたいことで,皆様はもちろん関係者一同に感謝します.本来はもう少し早くお話ししても良かったのですが,ここを訪れていただいている皆様は本書を既に購入してくださった方が多いと思うので,重要な情報ではありませんので.
とはいえ,これから本書を購入してくださる方もいるかもしれません.DSJ2018で私の前の座席に座っていたH社の女性のかたや,口頭発表されたのでお名前を出してしまいますが,筑波メディカルセンターの上條先生にも「初版のミスを訂正した重版がもうすぐ出るのでそれまでお待ちください」とお話ししていましたが,改めてご報告しますと,12月5日に重版出来(じゅうはんしゅったい)となりました.
いつ頃書店に並ぶかというと,一般書店では第1刷の在庫が残っているかぎり第2刷は入荷しないそうなので不明です.Amazonでも最近在庫が切れていたのは重版の影響もあるのかもしれませんが,今オーダーすると第2刷が手元に届くのかは不明です.確実に第2刷を入手したい場合はオーム社の直販をご利用ください.もしもオーム社の直販を利用されるのでしたならば,著者割引きも効くようですので,ブロクのコメント欄でご連絡いただければと思います.
実は昨日重版が手元に届いたばかりなので,重版での訂正箇所は来週のブログで公開します.既にこのブログでも明らかな間違いは訂正を投稿していますが,その他にも補足した部分があるので,本書をご購入いただいた方にも今しばらくお待ちください.

もう一つのご報告は,次回のJMPer’s Meetingでの講演が決まったことです.先のDSJ2018(以下Summit)で登壇したジャパンセミコンダクターの坂本さんにじっくりとお話しいただくという企画なのですが,わたしもその前座にお話しすることになりました.ジャパンセミコンダクターという会社はご存知ない方も多いかもしれませんが,東芝の壮絶な社会実験の果てに大分工場からジャパンセミコンダクターへと独立した会社です.リニアラインセンサーやアナログ半導体などの多様な製品を生産していて,現在ではおよそ3割が車載製品です.
さて,例年のSummitでは口頭発表は25分枠と50分枠があったのですが,今年は全てを25分枠に統一しました.この変更は発表の申し込み後に決めたことなので,50分枠で申し込まれた方には発表を25分へ短縮するという無理をお願いして,申し訳なかったと思っています.コミッティのメンバーとしてこの場でもお詫びいたします.とはいえ,できるだけ多くの方に発表していただくための措置なので,皆様快く了解くださりました. ですが,やはり話し足りないという方もいらっしゃって,そういう方々にはJMPer’s Meetingの場で時間をとってお話しいただくという場を提供いただけることになりました.坂本さんの発表(半導体デバイスにおける特性分析及び動特性評価とその最適化について)も内容を切り詰めるのに苦労したようで,後半のJMPのデモも端折らなければなりませんでしたが,今回はデモを交えて話してもらえそうです.今回の坂本さんの発表が第一弾ですが,次回以降も他の講演者のお話しをじっくり聴ける機会が続くようです.
Summitでの坂本さんの発表は実験計画の事例としてかなり実務に踏み込んだ内容でしたので,他の製造業の参加者にも好評だったと聞いています.Summtに参加できなくて聞き逃した方には良い機会ですね.わたしは,というと前座として坂本さんの事例で使ったMCDAアドインについてお話しします.本書の第5講についてのセミナーはいつか開催したいと思っておりますが,まずはMCDAアドインとはどういうものなのか知りたいという方はぜひご参加ください.90分程度の時間をいただいていますので,実験計画における動特性設計やロバスト設計の意義などから初めて,そのためのツールしてMCDAアドインを紹介するという流れを考えています.
日時ですが,まだオープンになっていないのをこの場でリークするのはまずいかもしれませんが,とりあえず2月22日(金)の午後は空けておいてくださいとだけ口を滑らせます.講演後にはお茶とお菓子でネットワーク作りの場も設けますので,皆様とお話しできるのを楽しみにしています.
それではまた来週.

2018年12月15日

コミュ力とは何か?

ブログとはそもそも日記のようなものなので,思ったことを書けばいいのでしょうけれど,思ったことをそのまま発信するのは気が引けるものです.結果として誰かを批判するように取られてしまうのを恐れるからです.そんなわけで,あまり時事ネタは取り上げないようにしているのですが,たとえ少しでも統計に関わっていれば話は別です.
今週目にとまったのは,順天堂大学の入試問題についてのニュースです.朝日新聞デジタルによれば,「順大入試、女子を一律に減点「コミュ力が高いため補正」」という見出しで以下のように報道されていました.

 順天堂大(東京都)は10日、医学部入試をめぐって設置した第三者委員会から「合理的な理由なく、女子や浪人回数の多い受験生を不利に扱っていた」と指摘されたと公表した。

具体的には,2次試験の面接で女性の点数に負の下駄を履かせていたとのことです.その理由が「女子はコミュニケーション能力が高いため、補正する必要がある」からとのことです.補足すると,この差は「18歳の時は女性が高くても、20歳で一緒になる」のだそうです.この「客観的データ」に基づいて,18歳の男性の不利にならないように面接評価を補正したとのこと.この「客観的データ」というのは,大学側が第三者委員会に提出した,その旨の医学的検証を記載した米大学教授の1991年の論文と書かれてあります.朝日新聞がその論文を確認したところ,面接時のコミュニケーション能力について論じた部分は見当たらなかったそうです.記事には論文についての詳細はありません.「有料会員になると続きをお読みいただけます。残り:660文字/全文:1311文字」とのことで,660文字にそれが書かれているのかもしれません.無料会員でも1日1本まで有料記事が読めるのですが,朝日新聞のサイトはトラッカーが多い(確認できるだけでも5つ)のであまり立ち寄らないようにしています.(因みに,読売新聞も毎日新聞も1トラッカーしか確認できません.)
どうやって「コミュ力」のような得体の知れない能力を医学的なエビデンスの検証対象としての俎上に載せるのか興味があり,わたしもその論文を読んでみたいと思ったのであちこち調査して,ようやくその論文を見つけました.幸いオープンになっています.Cohn L.D.(1991), Psychol Bull. Mar;109(2):252-66 Sex differences in the course of personality development: a meta-analysisという題名からもわかるようにメタアナリシスの論文でした.著者はテキサス大学のCohn先生です.
この論文を読むのに必須な前提知識がありまして,それがLoevenger’s Systemと呼ばれる自我発達過程についての理論です.子供から大人へと登る階段とでもいいましょうか.1976年の論文(Ego Development: Conceptions and Theories)では衝動的から自立的に至る7つの段階(定義の違いによっては9つまたは10)が説明されています.重要なのはこの理論では各段階と年齢とを紐付けないので,大人でも衝動的段階に留まったままの人もいるかもしれないということです.
Cohn L.D.(1991)では,この階段の登り方に性差があるかを調査した65の研究(113の比較データ)をメタアナリシスにかけたものです.どのように自我発達段階を数値化したかを読んでみると,WUSCT(Washington University Sentense Completion Test)という,文の出だしを与えてそれに続く言葉を考えて文章を完成させるテストを基にしているようです.例えば,”If my mother…”に続いて,“…hadn’t married so young and had less than five children…”などと書いたとして,それをマニュアルに従って採点します.このテストには色々なバージョンがあるようですが,ジェーン・ロエビンガー先生の考案したオリジナルでは36ある文章完成問題の総合点数TPR(Total Protocol Rating)スコアという1つの指標で発達段階を表現します.メタアナリシスでは男女間の差を,効果サイズ(Hedges’gが計算できる情報がなければCohen’d)で統合的に示したのです.エビデンスレベルとしては高い研究と思います.JMPでどうやってこれらの指標を求めるかについてはいずれこの場で書きたいと思います.
その結論としては,女性の方が男性よりも青年期においては(自我発達段階において)進んでいるが,大人になるとその差は消滅するというものです.言葉を変えれば「女の子の方がおませだ」という一般に言われていることを科学的に検証したといえます.
問題は,この結論から大学入試(高校卒業)の時点で女性の方がコミュニケーション力があると言えるかということですね.いくつか思ったことを列挙します.
1.発達段階とコミュニケーション力の関係については重要なキーワードがありますが,1つはego centrismです.自己中心主義と訳すこともありますが,今の文脈ではピアジェが児童心理学で用いた自己中心性のことです.よくあげられるのが,幼い子供が目をつぶって相手からも自分が見えなくなると思い込むという例です.即ち,自分の主観的視点でしかものを見れないという幼児期の特徴を意味しています.ego centrismをコミュニケーション力の指標とするならば,自我発達段階が進んでいる女性の方が(ある年代までは)コミュニケーション力はあるとは言えます.一方,Cohnの論文には,先行研究の知見として”perspective talking appears no greater in girls than in boys.”という記述があります.perspective talkingとはthe ability to accurately label the feelings of another person(他人の気持ちを正確にラベル付けする能力)と書いてありますが,日本語では視点取得と訳され,相手の立場に立って考える対人的な共感的過程のことです.この能力は男性よりも女性の方
いずれにせよ,Cohn論文には,コミュニケーション力という言葉が直接出てくるわけではありません.この点は朝日新聞の指摘通りなのですが,問題はそこにはなく「自我発達段階が進んでいるからコミュニケーション力がある」というピース(エビデンス)なしには順天堂大学のロジックは破綻しているということです.探せばあるのかもしれませんが,それなしにはロジックの中抜き論法にすぎません.特に初段に権威を持って来ればその威力は絶大だという例になっています.
2.WUSCTはジェーン・ロエビンガー先生がそもそも女性を対象として開発されたテストであって,男性や日本人に対しての妥当性は別の議論になります.男性向けのマニュアルや日本人を対象としたSCTも開発されていますが,それは90年代後半になってからのことなので,Cohn論文の対象となった研究で発達段階の(少なくとも日本人の)性差を議論するのは疑問が残ります.
3.性差があったとしても,それは大人になれば消失するという結論です.それでは,どの時点で消失するのかについて考察もされていますが,高校生の間は差は安定しているもののgrade13(米国では18−19歳)で急激に減少すると示されています.もしかしたら,この発達段階の性差のダイナミズムは大学入学という節目による環境の変化を反映しているのかもしれません.何れにせよ,20歳で消失するというのではなく,20歳では既に消失(低減)しているというのがより正確です.従って,面接試験を受ける女性(特に一浪でもしていたら)不利を被っているだけということになります.
4.仮に,順天堂大学のロジックの根拠を認めたとして,そもそもコミュニケーション力が高い方が医師に向いているのではないでしょうか.不公平をもたらすというのであれば,面接を止めれば良いのでは?
5.計測技術の技術者としてこれだけは譲れないのが,補正という言葉は使わないでいただきたいということです.減点とかペナルティとかハンディキャップとか他に適切な言葉は色々ありますから.

この件についてわたしがどう結論するかはここには書きません.とはいえ,朝日新聞の記者が読んだというだけで納得せずに,自分でソースを探し出して自分で理解しようとしました.勉強になったこともたくさんあります.これが統計リテラシーの基本だと思うのです.

それではまた来週.

この記事を書いた後に奥村先生のtweetがありましたのでご参考まで.

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2018年12月08日

おでんの話

今週は暖かい日が続いていましたが,この週末は寒いですね.こういう日はおでんなんか食べたくなります.実は,卓上の電磁料理器を最近購入したのですが,これがなかなかよく出来ているんです.この調理器には「味しみこみ」コースというがあって,メーカー(パナソニック)によれば「煮崩れを抑え,味がよくしみこんだ煮物ができる」とのことです.さっそくおでんで試してみたところ,確かに通常より短時間でも味が染み込んでいるようです.煮崩れしやすい大根などは長時間の煮込みは適さないのですが,これならば味の染み込み具合は十分です.おでんのタネによっても最適な調理方法が異なるのではないかと,最適化をしようと真剣に実験計画を検討していました.ですが,5時間足らずでこの状態に調理できるのであれば,全く不満はないのでその必要はありません.
未確認ですが,おそらくこの「味しみこみ」モードではパワーを抑えて温度を低めに制御しているのではと予想します.沸騰させずに加熱することで,煮崩れを低減するのでしょうけれど,このモードで味が早く染み込む訳ではないようにも思います.直感的には,出し汁に大根を漬け込んでグラグラ煮込んだ方が早く味が染み込むはずです.一方で,煮物は冷めるときに味が染み込むという話も聞いたことがありますし,真実はどうなのかを検索しているうちにブログ記事を書く時間を取られてしまいました.完全によそ様の情報だけでブログを書くのも躊躇われますが,本日はその報告でご容赦ください.
おでんということで最初に検索した紀文アカデミーには,火を止めてそのまま放置するおでんの作り方に対して下記が掲載されています.

意外に勘違いしている人が多いのですが、「冷めるときに味がしみ込みやすい」わけではありません。温度が高いほど味のしみ込みは速いので、火を止めてからのほうがゆっくりしみ込んでいきます。途中で火を止めているのは、煮くずれを防ぐためと考えられます。

回答されているお茶の水女子大学生活科学部食物栄養学科の佐藤先生は大学の研究者情報によれば「根菜類のテクスチャー及び味が同時に適度となる最適調理条件をシミュレーションの手法を用いて明らかとすることを目的としている。」そうです.勘と経験の賜物であった料理の世界にこそ最適設計が必要となるのですね.実験計画など実施されているのでしょうか.大変興味深いところです.
ネットには他にも,「煮物は冷ますと味がしみる」はただの勘違い? 分子調理学者が考える“最もおいしいおでんの作り方”などという記事もありました.こちらの石川先生は宮城大学の食品分子栄養学研究室で『料理と科学のおいしい出会い』という著書もあります.専門分野は分子食品学,分子調理学,分子栄養学とのことで,分子調理・分子料理ラボというサイトを運営されています.上記の記事で石川先生は次のようにとおっしゃっています.

「うま味、甘味の感じやすさが温度によって異なる一方、塩味はこのような変化が小さいことから、「(冷めた煮物は)より塩味をきつく感じるため」ではないか」

両先生のご意見では「味しみこみ」モードで味が(早く)染み込むことはないとのことです.そう感じるのは勘違いだそうですが,わたしの体感では確かにつみれなどは味が通常より早く染み込んでいるように感じたので,相入れません.ということで,更に調査を続行します.
その結果浮かび上がってきた別のメカニズムがありました.その研究はOLYMPOSが主宰するシゼコン(昭和35年から続いている小・中学生を対象とした自然科学観察や理科自由研究のコンクール)で参照できます.冷めるとき味がしみこむのはなぜか? という愛知県刈谷市立富士松中学校のお二人の研究です.大学の先生顔負けの素晴らしい研究だと感心しました.第46回入賞ということで今年が第58回でしたから,12年前の研究で彼らももう社会人になっているかもしれません.彼らの考察によれば,

食材は加熱時に軽くなるが、冷却時には重くなる。これは加熱時に食材の水分が抜け、冷却時に水分が戻るためで、このとき味の成分も食材の中に取り込まれ、味がしみこむ。

ということで,この仮説はわたしの体感とも合致します.このようなメカニズムは十分あり得るように思います.

食材を一定温度以上に加熱すると、味はしみこみやすい。

という考察を補足しますと,同じ煮物と言っても,大根のような根菜とつみれのような練りものでは大きな違いがあることに注意すべきです.植物である大根には細胞があるのでそのセルロースの壁を壊さないと味(煮汁)は浸透しにくいのです.このために皮を厚く剥いたり,一度高温で加熱したりする必要があり,「味しみこみ」モードでも事前に柔らかく煮ておくように説明書に書かれています.彼らの研究では,実験6と実験7でこの事実に迫っています.
ただ,食材が加熱中に軽くなるという観察結果だけでは,水分が抜けているということを証明できません.水分量を計測する必要があります.とはいえ,実際に澱粉の水分量を計測した論文があります.伊藤他,瀬木学園紀要 (4), 60-64, 2010,加熱条件の違いによる各種澱粉の水分量と吸湿性の変化によれば,少なくとも練りものでは確かに冷却過程での味の染み込みが期待できるのではないでしょうか.

暇ネタですいません.本日はこれにて.
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2018年12月01日

大掃除と最適化

今日から12月ですね.12月と言えば師走.師走と言えば大掃除を想起するのが日本人です.新年早々を塵一つなく迎えたいという願いの顕れでしょうか.何かと忙しい年末にわざわざ大掃除しなくとも,新入学・入社を期に引っ越しする際に不要なものを捨てたりすることが多いでしょうから,大掃除をするならば3月のほうが合理的のような気もします.米国ではスプリングクリーニングといって大掃除は春と決まっていました.これは冬の間の暖房(石炭ストーブや暖炉など)の汚れをシーズン終了を機に家中を掃除したことの名残です.大掃除とまではいかないけれど,今でも春先になると机の上の整理・整頓をしたくなります.
 
という枕を置いて,以下強引に問題解決に繋げてみます.
 
『オトナ女子の整理術』新星出版社編集部 (編)という本を何気なく読んでいたのですが,気になったことが書かれていました.この本そのものは新社会人になる若い女性向けのマナー本とでもいいましょうか,30分もあれば読めてしまう本ですが,その中に「整理と整頓の違い,わかりますか?」というコラムがあって次のように書かれています.
 
整理は「いらないものを処分すること」,整頓は「必要なものを分類&片付けて整えやすくする」こと

この定義には少し異議があります.私の考えでは,整理は見栄えを良くすることを第一義とし,整然と揃えるための行為です.真っ直ぐに並べたり角を揃えたりといった見た目だけでなく,分類や分別もこの範疇に入ります.「整理」の理は道理の理であって曲がらず真直ぐという意味です.エントロピーを下げると言い換えてもいいかもしれません.一方,整頓は素早く作業できるということが第一義で,例えば,ものを所定の場所に戻したりする行為です.ですから,分別するのは「整理」ですが,それを廃棄するのは厳密にあは「整頓」です.ゴミ箱の中が所定の場所というわけです.整頓の頓の字に注目してみて下さい.仏教で修行の過程を経ずに直ちに悟りにはいることを頓証菩提と言いいますが,頓は直ちにと言う意味です.薬の頓服なども症状が出たら直ちに飲む薬のことです.頓服薬でない場合は,食後とか食間とか症状に関係なく飲む薬として内服薬を出されますが,こちらは口から導入するという意味なので,対にするならば外用薬でしょうか.閑話休題.
 
この本ではいろいろなケースについて整理か整頓かの例を示して,読者の理解を促していますが,書いた人が混乱しているようで,これを読むとむしろ混乱します.例えば,この本で「整理」の例としてあげているのは以下の行為です.
1.書類をいるものといらないものに分ける
2.机の上にあるものをとりあえずダンボール箱に移す
3.必要のない名刺を捨てる
4.終わった仕事の資料で,残しておくものと捨てるものを分ける
5.外出後にかばんの中を整理し,いらないものを捨てる

分別する行為,言い換えればエントロピーを低減するのが「整理」という私の定義に照らして上記の例を判定してみると,1と4は確かに「整理」です.ですが,3は必要性によって分類する行為は「整理」ですが,不要な名刺を保管せずに捨てる行為は「整頓」です.因みに,5は本当にこう書いてありました.整理するならば「整理」だろうと思うかも知れませんが,これは「整頓」です.不要なもの満載でも整理されている鞄はあり得ます.2では,机の上が綺麗にみえるならば「整理」とも言えますが,移動しただけで分類されていないのですから,「整理」とはいえません.部屋の片づけをする際に,とにかく一切を箱に詰め込むという人がいまして,彼曰く「何か探し物があれば必ずその箱に入っているから早く探せる」と豪語していましたが,ある意味でこれも「整頓」かもしれません.

一方「整頓」の例としては次の例があげられています. 
6.ファイルのサイズを合わせて並べる
7.メモをテーマごとにA4の紙に貼る
8.終わった案件の書類を処分する
9.机の引き出しに仕切りを入れて,文具を取り出しやすいようにしまう
10.帰る前に机の上をざっと片付ける
11.本棚の本を分類ごとに並べる
12.パソコンのファイルをテーマごとに分類する
13.使った資料を棚に戻す
分別して「整理」した後に,それを所定の位置に置く行為が「整頓」,言い換えればアクセス速度を向上させるのが「整頓」という私の定義に照らせば,これらの例は確かに「整頓」ですが,大きさで分類する行為などは「整理」でもあります.大きさの順に並べることの目的が見栄えなのであればそれは「整理」ですし,必要なファイルを探しやすくするのであればそれは「整頓」です.また,仕切りを入れるということの効果はものに所定の位置を与えるということで「整頓」で間違いありませんが,仕切りの効果は見栄えを良くする「整理」にもなっています.本を分類する作業は「整理」ですが,分類ごとに並べると大きさや色で揃わないことになるので見栄えはよくなリませんので,探しやすくなるという点からは「整頓」で正解です. 

「整理」と「整頓」はともにシステムの状態を変化させる行為と考えることができます.この場合,「整理度」と「整頓度」という数値特性でシステムを記述して,これらでシステムを多目的最適化することも可能です.この場合,例えば,机の上の状態(モノの位置)を最適化するとして,どのようなデータを取ればよいでしょうか.「整理度」であれば画像処理でモノの並びの直交度等を計算して数値化したり,「整頓度」のほうは人の位置からのものの重心位置までの距離の積算値,あるいは何らかの作業を仮定した距離指標を画像計測してもいいでしょう.でも,両者の定義は上述のように人によって曖昧ですし,仮にわたしの定義によったとしても数値化には主観が入ってきています.しかも,おおよそのところ両者は相関があるといえるので,そもそもこの二つを独立した特性と看破することが困難です.最高に整理された状態が作業効率が最大とは限らず,逆もまたしかりなので,多目的最適化が必須であることは間違いありませが,主観的特性では最適化の数値目標が不明確なので,どの状態が最適なのか決めるのが困難です.

こういう正体が良くわからない主観的特性を最適化するときの戦略の一つとして,フルモデル(二次までの交互作用と二次項をすべて)でカスタム計画を作ることがあります.異論はあると思いますが,わたしはこの場合の最適化基準はI最適でいいと考えています.その上でまずは実験し,そのサンプル(今の例では画像)から可能な限り数値を引き出すことを試みます.要するに実験が先で特性は後から考えるという方針です.最初から計測手法を限定せずに,あらゆる特性の候補を立てます.もちろん,実験単位が製品であるような場合に限ります.机の状態であれば画像を残しておいて,後からありとあらゆる画像計測を実施することになります.これら特性の候補についてモデリング,最適設計を繰り返して,意味のある結果が現れるかを考察しますと,思いがけないトレードオフが現れたりすることがあります.フルモデルは実験数が多くなるのが難点ですが,(少なくとも二次までの)交絡はありませんし,何が特性となるかわからないという状況ではとても有効です.

この人は考えるより先に手を出すのが好きだなと思ったときにはフルモデルの戦略をお勧めしています.一方で,考えることが好きで慎重なタイプの人には主効果のみで計画を立てたり,決定的スクリーニングを先行する戦略を指導しています.ですから,良いコンサルテーションにはまずその技術者のタイプを見抜くことが大切です.

いささか強引で落ちはつけられませんでしたが,今週はこれにて.
タグ:問題解決
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2018年11月24日

統計とチンパンジー

今年のDiscovery Summitでは産業分野からの発表が増えました.産業分野からのコミッティ委員メンバーとして,ありがたいことです.企業に所属している技術者が社外発表するのは,会社によってはハードルが高くてなかなか困難なご時世ですが,それを乗り越えてでも価値があると考えています.

これはわたし自身の体験ですが,発表を意識することで考察のレベルがぐっと高まります.発表前になって粗を見つけてしまい大慌てで対策を考えたり,あるいは発表のストーリーを軌道修正したりということは度々あります.そこに価値があります.技術者としてもそのことには気づいているので,発表はしたいんだけど,という方がたくさんいらっしゃいます.Summitでもある企業の術者の方とお話ししたのですが,発表を検討していたんだけれど上司に「まだそのフェーズでない」と言われたとか.t分布の発見で有名なゴセットが,所属していたギネスビール社に隠れてStudentというペンネームで論文を発表したことはよく知られています.当時も「まだそのフェーズでない」と言われて彼が引き下がっていたら,確実に統計学の進歩は遅れていたことでしょう.とはいっても,Summitは学会ではないのでデータは作っても構わない(その旨は明示すべきですが)と考えていますし,技術背景も代替モチーフで説明しても何ら問題ありません.わたしが一昨年の発表で使ったメッキの事例は「ある半導体プロセス」の代替モチーフです.

Summitの場合,もう人つ発表者に恩恵があります.発表者には参加費無料(ポスターは半額割り引き)の特典があるのはご存知だと思いますが,実は前夜にプレナイト・ディナーが開催され,そこにも招待されるのはご存知でしたか.その場には米国からSAS社の幹部も参加していますので,いろいろとJMPについてに深い話も聞けます.わたしも今回,あるスクリプトの一般公開の可否についてスクリプトを書いた本人(テクニカルセッションに登壇したBrady Bradyさん)に直接尋ねることができました.因みに,現時点では公開されていないが,公開する方向で検討するというお答えでした.

プレナイト・ディナーにはコミッティメンバー全員に簡単なスピーチをせよとの依頼を頂いたので,以下のようなお話をしました.日本人が多数の場であり,米国SAS社の幹部には通訳がついているので,日本語でお話しすることも考えましたが,韓国からの参加者が3名ほどいらっしゃるので,英語でやってみました.久しぶりに英語を話すので,皆様に通じるかが不安でしたが,後で韓国からの参加者にお世辞でしょうが「Good presentation」と言っていただけたので言いたいことは理解していただけたようです.以下は覚えている限りの要旨を補足,修正しています.

スピーチここから
昨年,幸運にもJMP14についての early adopter version を試す機会に恵まれましたことに感謝しています.小さなバグを見つけたのでそれを報告し,製品版で修正されました.JMPのMac版に貢献できて幸せです.そのとき,JMP wish listにささやかな要望も投稿しました.未だに誰からも反応ありませんが,今でもMacbookのTouch Bar にtool メニューが欲しいと思っています.
これはJMPユーザーとしての要望ですけれども,現在は単なるユーザーとしてよりも,JMPのadvocatorあるいはエバンジェリストのような役目で立ち回る機会が多くなってきました.ことあるごとに,周囲にJMPを使ったDOEや統計分析の重要性を訴えていますが,多くの人からの反応はまだ薄いのが現状です.なぜあの人たちには,世の中の常識が理解できないのかについていろいろと考えるに,思い当たることがありました.
道具を使うチンパンジーのことをご存知かもしれません.いくつかのチンパンジーのグループは平たい石の上に種を載せ,ハンマーのような別の石でそれ潰して中身を食べます.野外観察によると,婚姻のため道具を使わないグループから道具を使うグループへ移動したメスのチンパンジーは生涯にわたって道具を使うことを覚えられないそうです.彼女の子供は道具を使うことを覚えるので,遺伝ではありません.京都大学の研究者によれば,チンパンジーは幼少期のある一定の時期に道具を使うことを学習しないと一生道具を使えないのだそうです.
この話を思い出して腑に落ちました.世の中の常識が理解できない人々は新人のときに統計ツールを使う機会がなかったので,もはや統計あるいはJMPを使うことができないのです.そこで私は戦略を変えました.理解できない人々を説得して時間を無駄にするよりも若い技術者を指導していくことが肝要です.明日のジャパンセミコンダクターの坂本さんの発表はその成果の1つです.皆様が明日の彼の発表にきてくださることを望んでいます.
スピーチここまで

因みにDOEの重要性や統計ツールの有効性が理解できない人々をチンパンジーと言っているわけではないですよ.この意味ではわたしたちも同じチンパンジーには違いなく,ただわたしたちのグループは道具を使うことができるというだけの違いです.現時点では道具を使うグループも使えないグループも共存しているわけですが,今後の環境の変化などで生き残っていくのは道具を使うグループであることは間違いなく,これはチンパンジーに限ったことではありません.
それではまた.
posted by Tad at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | JMP