UA-115498173-1

2018年05月05日

常識を疑う(追記あり)

追記
数式の修正に漏れがありました.下記でsとあるのは全てsの二乗に読み替えてください.定義の問題と逃げることもできますが,通常sは標準偏差を意味するので,ここは正直に間違えましたと白状します.前回の記事にも修正をいれておきました.この公式は覚える必要もない類のものなので,混乱させてしまったら申し訳ないです.JMPを使うならば導出できなくても全く問題ない類の数式ということも改めてお伝えしておきます.
追記ここまで

先週の投稿で数式にタイプミスがありました.明らかな添字の間違いに気づかず申し訳ございませんでした.ブログのコメントで指摘して頂いたのですが,ちゃんと数式にまで目を通していただいたことに感謝します.さっそく修正しておきました.承認しないでよいとのことでしたので,頂いたコメントは公開しませんが,コメントで指摘してくださった方,どうもありがとうございました.
コメントとしてときどき質問は頂くので,ここに誰も来ていないとは思ってはいませんでしたが,わざわざブログ記事を読んでいる人がいるのだろうかと,ときどき思っていたところなので素直に嬉しいです.書籍のサポートブログとして開設して,一年は何らかの投稿を続けようと思っていましたが,ネタが続く限り,読んでくださる人がいるならば続けようと思いをあらたにしました.幸いネタはどんどん増えていっているくらいなので,今のペースであればなんとかなりそうです.そういえば去年の今頃は「統計的問題解決入門」の執筆中でした.あのときと同じく,鶯の鳴き声が今もしています.
ということで,MathTypeを起動したついでに今週のネタを変更して,先週の数式について少し説明を加えます.(以下では先週定義した記号を使いまわします.)例にあげたのは二つのサンプルの平均の差の標準誤差についての公式でした.(この式にタイプミスがあったわけです.)
F1.png
平方根内の右側については先週の説明でわかると思うので,左側を導出します.即ち,2サンプル共通の不偏分散σ^2が次式で示されることを証明します.プレビューを見て気づいたのですが,以下の数式では画像の解像度を低くしてしまったようで読みにくくてすいません.
2.png
ここで,2サンプルをまとめて1つのサンプルとみなしたときの平方和SSを考えると,σ^2は次式で表せます.
3.png
ここでSSはサンプル1の平方和SS1とサンプル2の平方和SS2を合わせたものですから
4.png
となることは容易にわかるでしょう.SS1は次式のようにサンプル1の標本分散s1をN1倍したものであることが証明できます.
5.png
SS2も同様なので,SSは次のようになり,これで最初の式が証明できました.
6.png
母分散の不偏推定量として不偏分散をサンプルサイズから1引いた数で割ったものと覚えているだけでは,上記の証明で2サンプル共通の平方和と不偏分散との関係を理解するのが難しいかもしれません.ここでは自由度という概念を境にしたフレームワークが存在します.
このフレームワークを意識するということは常に心掛けています.例えば,数式が初見でフォローできない場合には,まずフレームワークに照らし合わせ,それを超える必要があるかを自らに問うことにしています.そしてフレームワーク内にあると考えたならば徹底的に突き詰めますが,それがフレームワーク外であればまずは素直に受け入れることにしています.
数式ならばそれでいいけれど,疑問と一緒にしていいのかと質問されたことがあります.たしかに,Feynman先生の教えとして「持ってよい疑問」と「持ってはいけない疑問」とがある,ということについてお話ししていて,字面を読むだけではミスリーディングを誘うかもしれません.PHPサイエンス・ワールド新書という新書シリーズがあるのですが,その表紙にEinsteinの言葉というかQuoteが書かれています.”The important thing is not stop questioning.”
このEinsteinの言葉は,自らのフレームワーク内で常に疑問を問い続けよと限定してとらえるよりも,フレームワーク外に疑問を見出してその疑問をいつの日か解明する志を抱けというメッセージとして捉えたほうがロマンがあります.一見するとFeynman先生の言葉と矛盾するようにも思えますが,わたしがFeynman先生の言葉を引いたのは,問題解決の場という学習のコストを意識しなければならない状況を意識してのことです.学習のコストという意味では独学する場合も似たような状況がある考えています.
山口周,『知的戦闘力を高める独学の技法』,ダイヤモンド社というビジネス書があります.書かれている内容がやや抽象的で,参照している例に?なこと(ベートーベンがモーツァルトの弟子だったと断言していたりとか)が多々あり,書籍そのものはお薦めするか迷うところですが,イノベーションについて良いことを言われています.(そもそもこの著者はよい本を書くお方なので,本書では同じエピソードが二度出て来たりして,編集が雑という感じです.)

以下引用
ここに、よく言われる「常識を疑え」という陳腐なメッセージのアサハカさがあります。イノベーションに関する論考によく見られる「常識を捨てろ」とか「常識を疑え」とかいった安易な指摘には「なぜ世の中に常識というものが生まれ、それが根強く動かし難いものになっているのか」という論点についての洞察がまったく欠けています。「常識を疑う」という行為には実はコストがかかるのです。(中略)重要なのは、よく言われるような「常識を疑う」という態度を身につけることではなく、「見送っていい常識」と「疑うべき常識」を見極める選球眼を持つということです。
引用ここまで

わたしが言いたかったのはまさにこのことです.「常識を疑え」という陳腐なメッセージのアサハカさとまで言っていただいたのは痛快でした.私のことばで言い換えると,「常識」にはフレームワーク内のものと外のものがあって,両者を混同してはいけない.疑っていいのはあくまでもフレームワーク内の「常識」であって,そのためにはフレームワークがどこにあるかを意識する力が必要である,ということです.その力をどうやって養うのかについてはまた別の日に.
それでは,また.
posted by Tad at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 統計的問題解決

2018年04月07日

システム最適化と中華料理

先週の記事で「P178のイラストのように同じシステムでも見方(角度)を変えれば,全く異なったシステムになります.同じ問題を共有している仲間だからこそ起きやすい間違いを避けるために,システム構造図を活用してください.」
と書きましたが,初心者のうちはなかなか難しいと思います.本日は私が心がけていることをお話ししたいのですが,まず最初に一つの漢詩を引用します.

題西林壁
看成嶺側成峰
遠近高低各不同
不識廬山真面目
只縁身在此山中

これは北宋代最高の詩人と言われる蘇軾(そしょく)(1037-1101)の詩です.春宵一刻値千金でご存知の方も多いでしょう.有名な詩で,あちこちに解説がありますので(例えばここ)ここで繰り返すことはしませんが,わたしなりに自由に意訳してみます.

西林寺の壁にこの詩を書くよ
廬山(ろざん)は横から見れば山々が連なる嶺に見えるけど,また別の方向から見れば独立峰に見える
見るところが遠かったり近かったり,高かったり低かったりすると,廬山はそれぞれ皆異なって見える(これが廬山の真の姿なんだ)
だけど,この廬山の真の姿を知ることはできない
それはなぜかと言えば私が廬山の山中にいるからなんだ

廬山は中国江西省にある古典にもよくでてくる名山で,171もの峰々が連なる複雑な地形から構成された広い領域を指し,廬山自然公園として世界遺産にも登録されました.ここに有名な東林寺やこの西林寺が点在しています.
もうおわかりのように,システムを廬山に例えれば,その真の姿はシステムの中にいては見えないのです.それではどうすればいいかというと,システムの峰や嶺といった詳細を知るために,異なった複数の視点から眺めることが必要になります.このためにはシステムに関わるすべてのステークホルダー(利害関係者)を洗い出し,それぞれの立場からシステム構造を記述してみてください.
技術者が製品というシステムを考察するときはどうしても製造者としての立場になってしまいますが,例えばユーザーの立場に立ってみると,紙ヘリコプターであれば,特性である滞空時間はユーザーの身長に大きな影響を受けることがわかるはずです.その紙ヘリコプターを製造する立場に立ってみれば,形状が複雑な設計はプロセスタイムが増大するだけでなく,工作精度にも悪影響があるということが見えてきます.
これらの複数の視点を踏まえた上で,鳥になった気持ちでシステムを俯瞰します.わたしがシステムを考察するときには毎回このことを心掛けています.例えば,おそらくノイズ因子が影響しないシステムは製造業では皆無と思います.ノイズ因子に気づいていて,それを固定することでシステムから排除するというのであればいいのですが,そもそもノイズ因子に気付いていない.こういうシステムの構造を見落とさないためのヒントとしてお話ししました.
因みに,蘇軾の経歴を知ればこの詩の背景には仏教の根本思想があることが推察できます.般若心経の有名な一節「色不異空 空不異色(万物の事象には実態などはなくて空なのだ)にも通じるものです.ですから,蘇軾はこの詩は本来は「廬山の真の姿などというものは無い」ということを言っているのです.システムというものは,ステークホルダーとしての視点や,観察者の知識,経験によって変わるものであり,真のシステムなど存在しないということです.即ち,私たちは常にシステムの写像と対峙しているという認識が必要である,と常々謙虚に思っています.
蘇軾といえば,号を東坡といったことから,彼の考案したトンポーロという豚肉の中華料理にもその名を残しています.今晩はトンポーロでも食べながら,今抱えている問題のシステム構造について考えてみてください.
それではまた.
タグ:問題解決
posted by Tad at 17:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 統計的問題解決

2018年03月24日

システム構造図の意義

最近受けた質問に関連して,本日は本書P177で説明しているシステム構造図の二つの意義についてお話しします.一つはこの図を作成する過程でシステムを俯瞰することができることにあります.システムに関与するステークホルダーやそれらに蠢く変数を把握した結果を「わたしはここまで深くシステムを考察しています」と示すことにもなります.この目的であればフィッシュボーンチャートやマインドマップでも事足りますが,システム構造図は実験計画を意識した別の情報表現です.システム構造図をこのように描いてもいいのですが,別の描きかたのほうが重要です.
それは「わたしはシステムをこのように捉えています」という表明としての意義です.例えば,工場内の環境温度としてノイズ因子Nがあって,ある部品の接着剤による接合強度という特性Yに大きな影響があるとします.この場合,Nを設計因子として扱って最適解を得たとしても意味はありません.空調設備を導入するでもしない限り特定の温度の日だけ製造するなどということは考えられないからです.あくまでもロバスト設計の対象としてのノイズ因子ということですね.
この実験をやるならば,部材が大きい場合は特別にテストサンプルを作成して環境試験装置を導入する必要があります.この方法では実際の部品とテストサンプルとで接着工程の装置条件や強度の計測方法が異なる(そうならざるを得ない)場合には注意が必要です.苦労して実験計画を実施して最適化しても実際の製品ではその解が再現しなかったというのはよくある話です.このような事態を避けるため,あるいは環境試験装置のリソースがなければ,1年かけてその日の温度を計測して少しづつ進めていくという気の長い実験を強いられます.この方法でも,問題は結果を得るまでに要する時間だけでなく,温度意外に湿度などの他のノイズ因子が考えられる場合や,冷夏や暖冬といった自然現象の影響で思ったような実験ができないという問題があります.
このようにロバスト最適化には多大な実験リソースが要求されることは珍しくないので,これを避ける意味でロバスト化はひとまず置いて,先に接着剤の成分を乾燥時間を短くコストを下げるように最適化したいという状況も考えられます.ロバスト最適はもちろん重要ですが,品質工学の説くようにそれが第一義ではないように常々考えています.まず特性の最大化を達成すれば特性の変動にも強くはなる(スペックを満たすという意味で)わけですから.そうであれば,とりあえず因子Nは代表条件に設定して固定すればいいのです.(代表条件は複数あればベターで,この場合はそれらを多目的最適化することになります.)ノイズ因子は実験の場で固定できるわけですから,このとき因子Nはノイズ因子から固定因子となり,システム構造図では別の場所に置かれることになります.このようなシステムの写像を示すことがシステム構造図の本来の意義です.システムの捉え方は「わたしはこの問題をこの角度から見ています」ということにつながります.
特に事例報告において,報告する側と受ける側とでこの問題を見る角度が一致していることが重要です.お互いに分かりきったシステムであってもその意味するところが異なる場合はすれ違いが起きます.技術的コミュニケーションではこの状況は避けなければなりません.システム構造図では因子の置かれる配置が定まっているので,それぞれの因子をどのように捉えているのかが明確に伝わります.
余談ですが,学生時代に金田一春彦先生のお話を伺ったことがあって,今でも覚えている話を思い出しました.オリジナルの話の詳細はすっかり忘れてしまったので,甲さんと乙さんとの会話という形で新たに作ります.
甲:おやお久しぶり.最近は何をなさっているんです.
乙:最近は「のう」の研究に入れ込んでましてね.
甲:「のう」とは難しいことに取り組んでいらっしゃる.
乙:基本的に動きが少ないので情報をいかにとるかが難しいですね.
甲:どんな情報を集めるんです?
乙:最近は「のう」と夢との関係に注目しています.
甲:夢ですか,そういえば三島も書いてましたよね.
乙:はあ.(そんな名前の研究者いたかな...?)
甲:それでは,また.
乙:さようなら
という話で恙無く会話は終わったものの,お判りのように甲さんは「のう」を「能」と思い,乙さんは「脳」と思って話していたという落ちです.因みに三島由紀夫は能の『邯鄲』をもとにした作品を書いています.
P178のイラストのように同じシステムでも見方(角度)を変えれば,全く異なったシステムになります.同じ問題を共有している仲間だからこそ起きやすい間違いを避けるために,システム構造図を活用してください.
それではまた.
タグ:問題解決 Q&A
posted by Tad at 11:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 統計的問題解決