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2018年12月01日

大掃除と最適化

今日から12月ですね.12月と言えば師走.師走と言えば大掃除を想起するのが日本人です.新年早々を塵一つなく迎えたいという願いの顕れでしょうか.何かと忙しい年末にわざわざ大掃除しなくとも,新入学・入社を期に引っ越しする際に不要なものを捨てたりすることが多いでしょうから,大掃除をするならば3月のほうが合理的のような気もします.米国ではスプリングクリーニングといって大掃除は春と決まっていました.これは冬の間の暖房(石炭ストーブや暖炉など)の汚れをシーズン終了を機に家中を掃除したことの名残です.大掃除とまではいかないけれど,今でも春先になると机の上の整理・整頓をしたくなります.
 
という枕を置いて,以下強引に問題解決に繋げてみます.
 
『オトナ女子の整理術』新星出版社編集部 (編)という本を何気なく読んでいたのですが,気になったことが書かれていました.この本そのものは新社会人になる若い女性向けのマナー本とでもいいましょうか,30分もあれば読めてしまう本ですが,その中に「整理と整頓の違い,わかりますか?」というコラムがあって次のように書かれています.
 
整理は「いらないものを処分すること」,整頓は「必要なものを分類&片付けて整えやすくする」こと

この定義には少し異議があります.私の考えでは,整理は見栄えを良くすることを第一義とし,整然と揃えるための行為です.真っ直ぐに並べたり角を揃えたりといった見た目だけでなく,分類や分別もこの範疇に入ります.「整理」の理は道理の理であって曲がらず真直ぐという意味です.エントロピーを下げると言い換えてもいいかもしれません.一方,整頓は素早く作業できるということが第一義で,例えば,ものを所定の場所に戻したりする行為です.ですから,分別するのは「整理」ですが,それを廃棄するのは厳密にあは「整頓」です.ゴミ箱の中が所定の場所というわけです.整頓の頓の字に注目してみて下さい.仏教で修行の過程を経ずに直ちに悟りにはいることを頓証菩提と言いいますが,頓は直ちにと言う意味です.薬の頓服なども症状が出たら直ちに飲む薬のことです.頓服薬でない場合は,食後とか食間とか症状に関係なく飲む薬として内服薬を出されますが,こちらは口から導入するという意味なので,対にするならば外用薬でしょうか.閑話休題.
 
この本ではいろいろなケースについて整理か整頓かの例を示して,読者の理解を促していますが,書いた人が混乱しているようで,これを読むとむしろ混乱します.例えば,この本で「整理」の例としてあげているのは以下の行為です.
1.書類をいるものといらないものに分ける
2.机の上にあるものをとりあえずダンボール箱に移す
3.必要のない名刺を捨てる
4.終わった仕事の資料で,残しておくものと捨てるものを分ける
5.外出後にかばんの中を整理し,いらないものを捨てる

分別する行為,言い換えればエントロピーを低減するのが「整理」という私の定義に照らして上記の例を判定してみると,1と4は確かに「整理」です.ですが,3は必要性によって分類する行為は「整理」ですが,不要な名刺を保管せずに捨てる行為は「整頓」です.因みに,5は本当にこう書いてありました.整理するならば「整理」だろうと思うかも知れませんが,これは「整頓」です.不要なもの満載でも整理されている鞄はあり得ます.2では,机の上が綺麗にみえるならば「整理」とも言えますが,移動しただけで分類されていないのですから,「整理」とはいえません.部屋の片づけをする際に,とにかく一切を箱に詰め込むという人がいまして,彼曰く「何か探し物があれば必ずその箱に入っているから早く探せる」と豪語していましたが,ある意味でこれも「整頓」かもしれません.

一方「整頓」の例としては次の例があげられています. 
6.ファイルのサイズを合わせて並べる
7.メモをテーマごとにA4の紙に貼る
8.終わった案件の書類を処分する
9.机の引き出しに仕切りを入れて,文具を取り出しやすいようにしまう
10.帰る前に机の上をざっと片付ける
11.本棚の本を分類ごとに並べる
12.パソコンのファイルをテーマごとに分類する
13.使った資料を棚に戻す
分別して「整理」した後に,それを所定の位置に置く行為が「整頓」,言い換えればアクセス速度を向上させるのが「整頓」という私の定義に照らせば,これらの例は確かに「整頓」ですが,大きさで分類する行為などは「整理」でもあります.大きさの順に並べることの目的が見栄えなのであればそれは「整理」ですし,必要なファイルを探しやすくするのであればそれは「整頓」です.また,仕切りを入れるということの効果はものに所定の位置を与えるということで「整頓」で間違いありませんが,仕切りの効果は見栄えを良くする「整理」にもなっています.本を分類する作業は「整理」ですが,分類ごとに並べると大きさや色で揃わないことになるので見栄えはよくなリませんので,探しやすくなるという点からは「整頓」で正解です. 

「整理」と「整頓」はともにシステムの状態を変化させる行為と考えることができます.この場合,「整理度」と「整頓度」という数値特性でシステムを記述して,これらでシステムを多目的最適化することも可能です.この場合,例えば,机の上の状態(モノの位置)を最適化するとして,どのようなデータを取ればよいでしょうか.「整理度」であれば画像処理でモノの並びの直交度等を計算して数値化したり,「整頓度」のほうは人の位置からのものの重心位置までの距離の積算値,あるいは何らかの作業を仮定した距離指標を画像計測してもいいでしょう.でも,両者の定義は上述のように人によって曖昧ですし,仮にわたしの定義によったとしても数値化には主観が入ってきています.しかも,おおよそのところ両者は相関があるといえるので,そもそもこの二つを独立した特性と看破することが困難です.最高に整理された状態が作業効率が最大とは限らず,逆もまたしかりなので,多目的最適化が必須であることは間違いありませが,主観的特性では最適化の数値目標が不明確なので,どの状態が最適なのか決めるのが困難です.

こういう正体が良くわからない主観的特性を最適化するときの戦略の一つとして,フルモデル(二次までの交互作用と二次項をすべて)でカスタム計画を作ることがあります.異論はあると思いますが,わたしはこの場合の最適化基準はI最適でいいと考えています.その上でまずは実験し,そのサンプル(今の例では画像)から可能な限り数値を引き出すことを試みます.要するに実験が先で特性は後から考えるという方針です.最初から計測手法を限定せずに,あらゆる特性の候補を立てます.もちろん,実験単位が製品であるような場合に限ります.机の状態であれば画像を残しておいて,後からありとあらゆる画像計測を実施することになります.これら特性の候補についてモデリング,最適設計を繰り返して,意味のある結果が現れるかを考察しますと,思いがけないトレードオフが現れたりすることがあります.フルモデルは実験数が多くなるのが難点ですが,(少なくとも二次までの)交絡はありませんし,何が特性となるかわからないという状況ではとても有効です.

この人は考えるより先に手を出すのが好きだなと思ったときにはフルモデルの戦略をお勧めしています.一方で,考えることが好きで慎重なタイプの人には主効果のみで計画を立てたり,決定的スクリーニングを先行する戦略を指導しています.ですから,良いコンサルテーションにはまずその技術者のタイプを見抜くことが大切です.

いささか強引で落ちはつけられませんでしたが,今週はこれにて.
タグ:問題解決
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2018年11月10日

ロバスト設計とMCDAアドイン

前々回の記事で,プロファイルの「誤差因子」に何らかの因子を割り当てると,等高線プロファイルに尾根線が描画されるというtipsを紹介しました.こうすることで,割り当てた因子の微分係数が特性に加わり,それにゼロ望目の制約を加えることで,その因子をノイズ因子としたロバスト設計が可能となります.本書にダウンロード添付したMCDAアドインはロバスト(パラメータ)設計のためのアドインですが,プロファイルでロバスト設計ができるのに,なぜ,このようなアドインが必要なのかという質問をいただきましたので,今週はそれにお答えします.
短い答えを言うならば,何をしてロバスト最適とするのかという定義が違うというのが一つの理由です.少し丁寧に説明すると,プロファイルにおいて,満足度の最大化で得られるのは誤差因子に対する応答関数の微分係数を0にする解です.例えば,次のような応答関数を考えてみると状況が良くわかります.因みにこの応答関数はサポートファイルの「ロバストデモ.jmp」から作ったものなので皆様もお試しください.ご覧のようにこの応答関数は二山あって,∂X=0の制約を課して満足度を最大化したのが次の図です.
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∂X=0の点は3つあるわけですが,ここでは特性値に最大化の制約をかけているので,左側の山の頂点が解として導出されます.因みに,最大化の制約を外しても,その上でトリップの数などの「最大化のオプション」を増やしても(デフォルトでは20ですが,例えばそれを100とする)安定して左側の山が解となります.JMPの満足度最大化の癖のようなものでしょう.他のオプションを変更して試行錯誤すれば,左側の山の頂点以外が出てくるかもしれません.もちろん,特性を最小化にすれば真ん中の谷がこのように検出されます.
94_2.png
しかしながら,一般的な工業分野でより重要なのは右側の山の頂点(付近)です.特性値の変動という点では右側の頂点にある方がより大きなXの変化を受け止めやすいからです.この解は,微分係数に制約をかけることだけでは得られません.このためには,ロバスト化の指標を(特性の変動の)範囲(Range)においた最適化が有効です.但し,この場合でも状況によっては右側の山の頂点は出てきません.
下に示した解は,Xの変動を5%とした場合に導出したロバスト解の例です.(このような単純な例ではMCDAアドインは適用が難しいので,この例ではHOPEアドインを用いています.)ここに示したように,特性の制約次第で色々なロバスト解を暴くことができます.
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この暴くというフィーリングが特に工業分野での最適化では大事です.最適解は1つではなく,それは周囲の状況(社会情勢,時代)やステークホルダーにより刻一刻と変わって行くからです.ですから最適解そのものよりもシステムが内包している最適解の可能性を暴くことにより深い「意味」があるのです.その「意味」をシステムのオブジェクトと捉えれば最適解の候補がインスタンスということになります.
何よりも多目的最適化においては可能な限りロバスト化の制約は緩めておいたほうが都合が良いのです.ユーザーはロバストだからという理由で製品を購入はしないからです.一般的に,微分係数を0とするのはかなり強い制約です.この制約に引き摺られて特性の真の最適解を見逃す危険があります.ロバスト化の制約を緩くして,ばらつきは所望の範囲に入ればOKというケースがより好ましい場合がほとんどです.もちろん,微分係数に範囲の制約をかけることでも構いませんが,想像するのも困難なので通常は数値指定はできません.
このような範囲によるロバスト化を実現するのが本書に付属したMCDAアドインやHOPEアドインなのです.両者の違いについては以前お話ししたかもしれませんが,重要なことなので回を改めて説明したいと思います.因みに,来週のDiscovery Summit Japan 2018に参加される方は,そこでMCDAアドインの応用例の発表がありますので,ぜひお聞きになってください.
それではまた.
posted by Tad at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 統計的問題解決

2018年09月29日

暗黙知と問題解決

先週の続きを書こうとしたのですが,三週続くと飽きるので急遽話題を変えることにしました.そこで本日は「暗黙知」について解説します.元々は3年ほど前のJMPer’s Meetingで発表した際の配布資料で,(ページ数の制約から最終的に原稿からカットしましたが)『統計的問題解決入門』の第5講のオリジナル原稿の一部にもなっていました.それに少し修正を加えて以下に掲載します.

暗黙知という言葉をご存知でしょうか?どこかで聞いたことあるという方も多いかと思います.「大事なことは言葉では表せない」というようなコンテクストで使われることが今の日本では一般的で,以心伝心とか拈華微笑などとも同意です.因みに,拈華微笑とは,金波羅華の花を拈って見せたお釈迦様に,十大弟子の一人の大迦葉だけがにっこりと微笑んだという説話からきていて,これによりお釈迦様は大迦葉に仏教の真髄が伝わったことを知るわけです.このような話が不言実行を美徳とする日本人のベースにあったのでしょう,経営学者の野中郁次郎先生が,野中郁次郎『知識創造企業』東洋経済新報社で徒弟制度の伝統に由来するノウハウ的な知識の存在を日本的経営の強みとして世界に紹介したとき,それは直ちに日本で流行したのです.その際,この「言葉に表せない知識」を暗黙知と名付けたたことから混迷が始まります.なぜならば,暗黙知とはもともとハンガリーの物理科学者マイケル・ポランニーのTacit knowingの訳語として使われており,両者は全く異なった概念であるからです.
試みに,Googleで暗黙知を検索した最初の3ページの結果を下表に示します.(3年前の結果です.)
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この表で並記としているのは,Wikiやコトバンクのような辞書系のページが多く,その他とあるのは,暗黙知の中身には触れていないAmazonのページです.斜め読みですので判別の間違いはあるかもしれませんが,概ね日本では野中先生の暗黙知が主流になっているようです.この中にはポランニーを参照しながら,その説明は野中先生の暗黙知であったりする,やっかいな解説もありました.野中先生の暗黙知がこれだけ広まってしまった以上,私はポランニーの暗黙知は強いて訳さずTacit knowingと英語のままにするのがよいように思いますが,わたしとしては暗黙知という語感が好きなので,ポランニーの暗黙知として今後も使い続けていくつもりです.
それでは,ポランニーの暗黙知とはどういうものでしょうか?実は,これがなかなか説明しにくい概念なのです.実際.マイケル・ポランニー,高橋勇夫訳『暗黙知の次元』ちくま学芸文庫を読んでも「暗黙知とは〜である」とははっきりとは書かれていないので,読んでいてもどかしさを感じます.もともと,1962年のイェール大学における講義を元にして書かれているというだけあって,哲学書というほどではありませんが,やや難解な本ではあります.暗黙知についての解説はわたしの能力を超えていますが,「暗黙知の次元」に出てくる煉瓦職人の例を私なりに以下に解説してみます.
ここに一人のレンガ職人がいて,日夜良いレンガを作ろうと様々な工夫を凝らし,職人としての腕を磨いているとしましょう.彼にとっての良いレンガとは,耐久性に優れた丈夫で安価なレンガであって,そのためにレンガの製造工程では工業技術的原則や彼の経験による原則の制約を受けています.このレンガが何に使われるかに視点を移すと,そこにはこのレンガを使って良い家を建てようとしている建築家がいます.良い家とは,安全性,居住性を兼ね備えたものであり,そのため建築プロセスは建築学で記述されている原則に支配されています.更にこの家の集合体としての街に視点を移すと,そこにも良い街を作ろうとしている都市設計家がいて,やはり都市設計として従うべき原則に支配されています.一方,レンガ職人の下位に視点を移せば,そこにはレンガの材料を供給する会社の技術者がいて,その製造プロセスは物理学や化学の原理に支配されています.以上の記述を表にまとめておきます.
88-2.png
ここで,この階層システムに次の法則が成り立っていることがわかります.
1. それぞれの階層は次の二重の原理に支配される.
a) 各階層の諸要素それ自体の原理
b) 各階層の諸要素によって形成される包括的な存在を支配する原理
2. 下位のシステムはすぐ上のシステムに制限を課す.
3. 直下のシステムが上位システムの支配を免れるとその上位システムは機能しない
4. 下位システムの諸要素を支配する原理によって,より上位システムの原理を表すことはできない.
包括的な存在とは,下位システムから見て上位システムを包含したシステムのことです.これが『問題解決入門』で包括システムと呼んでいるものの正体です.ここには,物理,化学だけでは住み良い街は設計できないという,要素還元主義に対する批判があり,もともとポランニーの議論はそこを目的としていたようです.この議論の過程で,このような階層性こそがシステムの本質であり,この一連の階層性の中で順々に上位のシステムに至る人間の知の動的プロセスを発見したポランニーは,それを暗黙知と呼んだのです.即ち,ポランニーの暗黙知とは,次々と新しく高次のレベルの認知が形成されていくという一連の進化のダイナミズムであって,「言葉にできないものの知ることができる」という人間の生得的な認知能力なのです.

暗黙知の議論にはそこから生成される創発という現象が大変重要です.わたしは創発こそイノベーションへの鍵と考えています.創発についての話は次週とさせてください.

また台風が近づいていますね.皆様もご用心ください.

それではまた.
posted by Tad at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 統計的問題解決