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2019年03月09日

近江商人の商売十訓にみる最適化設計

本日は「DOEを成功させるための7つのヒント」その3の「動特性を評価しよう」ということについて書きます.

講演ではあえて動特性という品質工学の言葉を使いましたが,相応しい言葉とは思いません.そもそも品質工学では,制御工学分野から引っ張ってきている用語が多く,初学者には紛らわしいものです.SN比とかエネルギーとか似て非なるものを同じ言葉で表現することは極力避けるべきです.SN比の定義で対数を取ることは加法性を意識してのことでしょうけれど,パラメータ設計に持ち込むならば,無次元化した平均2乗損失の逆数という一般化した定義の方がわかりやすいです.

因みに,制御工学で動特性というときは,時間的に変化するシステムの応答関数を意味しますが,品質工学では設計因子と信号因子で二次元的に記述されたシステムの特性のことです.一方,このヒントでの動特性とは,設計因子と(目的)因子間の関係性を包含したシステムの統計モデルのことです.ですから動特性を評価しようということは,システムに目的因子を見出そうということと同義です.その上で,目的因子を取り込んだ実験をして統計モデルをつくり,更に目的因子の水準範囲で所望の特性を得る設計解を得ることを意味します.

一つ注意して欲しいのは,この目的因子という言葉はわたしが勝手に名付けた名称ということです.本書で説明しているように,目的因子とはユーザーが目的を達成するために調整する(可能性のある)因子のことです.例えば,炬燵の設定温度とか,自動車のエンジンの回転数とかがその一例です.エンジンの特性をトルクとパワーとで定義して,最適なエンジンを作ろうとした設計者は,回転数が重要な因子であることを知っているわけです.かといって,最適解として「5000rpmでお使いください」と取り説に書くわけにはいきません.ドライバーが速度(目的)に応じてアクセルを踏むことで回転数を調節することを前提としてエンジンというシステムを最適化しなければならないのです.回転数を例えば5000rpmに固定した場合を品質工学では静特性と呼んでいますが,何のことはない,目的因子を固定因子とした場合に過ぎません.

システムの目的因子が何かを考えることがポイントとなるわけですが,近江商人の商売十訓のその5にヒントがあります.松下幸之助が昭和11年の松下電器連盟店経営資料として書いたとされる「商売戦術30ヶ条」の第11条の出典としても有名です.「無理に売るな,客の好むものも売るな,客のためになるものを売れ」という言葉はどこかで聞かれた方も多いでしょう.客の好むものとは流行を追った商品であったり廉価商品であったりと様々ですが,そういう商品は売ってはいけないということです.そして,客のためになるもの,使って便利な商品を売りなさいと教えています.

マーケティング業界の言葉でマーケットインとプロダクトアウトはよく知られています.両者は対立した概念と説明されることも多いのですが,実は製造者の視点からユーザーを見ているという点で両者は同じものです.作るものが先にあってマーケットを探すのか,マーケット(消費者のニーズ)があって作るものを決定するのかの違いに過ぎません.

これら以外に,マーケットアウトという考えがあることはご存知でしょうか.マーケットアウトとは,ユーザーのニーズを踏まえて製品を作っていくというアプローチです.消費者の視点でマーケットから世の中が求めている製品を生み出すのがマーケットアウトであり,それを見据えて作るのがプロダクトインなのです.
上述した「客の好むものも売るな,客のためになるものを売れ」という言葉は,まさにマーケットインではなく,マーケットアウトたるべしということを言っているのです.これは私たち技術者にとっては,プロダクトアウトでなく,プロダクトインたるべしということと捉えるべきでしょう.

いささか脱線してしまいましたが,このプロダクトイン即ちユーザー目線での製造設計の肝が目的因子なのです.ですから,目的因子を考えるということはプロダクトインに繋がるはずです.ユーザーの求めるものがユーザー自身にもわからないことも多々あります.むしろユーザーは欲しいものは自覚できても,求めるるものは自覚できないと思った方が良いかもしれません.そこでわたしたち設計者が,顧客視点でそこに目的因子が潜んでいるはずだと深く考える必要があります.

Appleはユーザーが望んでも顧客のためにならないものは作らないという精神では徹底しているメーカーです.ある意味ではプロダクトアウトとも言えますが,それだけではここまで成功しなかったでしょう.そこにはプロダクトインがあったのは明白です.例えば,MicrosoftのSurfaceのようなタッチパネル搭載PCは作らないと明言しています.(タッチスクリーンのコンセプト製品もあるようですが)それはキーボードとの併用ではユーザーが疲れてしまうからだと説明しています.PCの最適化設計に,ユーザーの手の移動距離のような目的因子が想定できるのではないでしょうか.その他にもiPodの「所有している全ての音楽をポケットに入れて持ち運べる」というコンセプトや,シンプルかつスタイリッシュということを最優先したためにフロッピードライブを撤廃してユーザーにブーイングを買った初代iMac等々,これらは全てユーザー目線のプダクトインの製品であったことは今になって見ればわかります.昔のPCはフロッピーがあって良かったなどという人はいませんから.

あなたの製品の目的因子は何かをプロダクトインで考えてみてください.それではまた.
タグ:問題解決
posted by Tad at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 講演コンテンツ
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