2017年12月30日

統計とは

問題解決のコンサルテーションをしていて,ときどき統計をお教えすることもあります.統計は知らなくても問題解決できるという考えには変わりはありませんが,統計を知っていればより深いレベルで問題解決に挑めるのは間違いありません.そのときに必要になるのは良い教科書ですが,技術者に使える統計を教えたいというわたしの目的に合うものがなかなか見つからずに困っています.
多くの企業で実施されている社内教育ではパワーポイントの資料(あるいはそれを製本したもの)で済ませることがほとんどですが,これでは生徒の予習,復習ができません.良い大学の授業では,(基本はその先生がお書きになった)教科書があって,それを生徒が読んでいるという前提でパワーポイントを使って(あるいは今でも板書して)講義が進められます.パワーポイントには教科書と同じことを書くのではなく,それの理解を深めるような内容でなければ生徒は授業に興味を失ってしまいます.ですから教科書は適度に難しいことも重要です.しかしながら,これは学生相手だからなのであって,一般の技術者には「限られた学習時間で」という制約があることも考慮しなければなりません.
そこでここ数ヶ月,わたしの求める良い教科書を探して統計の本を洋書和書かまわずに手当たり次第に読んでいます.その中で気づいたことがあって,統計とは何かについての説明がそれぞれの本で微妙に異なっているのです.比較的難易度が低い和書でいくつか紹介しますと,例えば栗原伸一他(2017)『統計学図鑑』,オーム社,では「統計学とは,データを統計量(平均など)や図・表にまとめて,その特徴をとらえる学問です(p2)」という統計は手法であるという立場ですが,同じ著者でも,栗原伸一(2017)『入門統計学』,オーム社では「実験や調査を行って得られたなんらかの数値データを統計と呼ぶ(P2)」と書かれていて,こちらではデータそのものが統計という見方です.続けると,小島寛之(2006)『完全独習 統計学入門』,ダイヤモンド社,では「「生の現実」から,何かその分布の特徴や癖を引き出すための手法(p17)」と『統計学図鑑』と同じく統計とは手法であると書かれています.涌井良幸他(2015)『統計学の図鑑』,技術評論社,では「ある集団についての傾向や特徴を知るために「観測」したり,「調査」をしたり,実験した結果を「数字」や「文字」でまとめたものを統計と呼びます(p10)」と統計とはデータそのものであるという説明です.林雄亮他(2017)『SPSSによる実統践計分析』,オーム社,には「社会科学(特に社会学)における統計分析には,関心のある社会現象の「記述」と「説明」という二つのねらいがある(p3-4)」という趣旨のことが書かれています.この本は社会科学系の統計を解説している本なので社会現象と限定していますが,これを自然現象と言い換えても良いと思います.
わたしが思っている統計に一番しっくりくる説明は青本として有名な,東京大学教養学部統計学教室編(1992)『自然科学の統計学』,投稿大学出版会,の序文にあります.そこには「統計学とは何かということについては,昔からいろいろ面倒な議論がある」と書かれていて,その上で「簡単にいえば,それは数字データというものを,どのように分析し,どのような判断をくだしたらよいかを論ずる学問であるといってよい」とあります.
このようないろいろな統計の捉え方があって,それらのどれもが間違いではありません.とはいえ,この状況は「群盲像を触る」というインドの寓話を思い出させます.昔インドの6人の盲人が像のそれぞれ異なった部位を触って,それぞれ樹木の幹(足)や大蛇(鼻)のようなものだと主張したというお話はご存知でしょう.この話は学生時代に勉強したDavid Bohm(1989),“Quantum Theory”,でも(7人の盲人が鼻はロープで足は木と,細部は微妙に異なっていましたが)光の定義にこの寓話が引かれていて,Can we find a single concept that will unify our different experiences with light?と問いかけるフレーズを鮮明に覚えています.
今改めて,Can we find a single concept that will unify our different experiences with statistics?と思うのです.上述したそれぞれの統計のイメージは間違いではありませんが,わたしには何か物足りない気がしています.統計現象の観察,記録である数値を統計情報に変換して,それをもとに意思決定をくだし,それに従って行動する,この一連の流れすべてが統計であり,それを研究する学問が統計学ではないでしょうか.
残念ながら,青本の中身は序文と少し乖離していて,必ずしもこの流れに沿った本ではないことと,(赤本同様に)扱っている範囲が広く,何よりもこの本は東大生の教科書ですから,1コマとして年間30回の講義によるサポートを受けられない一般の技術者には敷居が高いのも事実です.洋書にはいくつか良い本があるのですが,自分の専門分野でもない英語の本を昨今の技術者に読めというのも現実的ではありません.良い教科書探しをこの年末年始に続けます.その結果次第ではありますが,本書の執筆で懲りてはいるのですが,自ら執筆することも検討するかもしれません.
それでは皆様良いお年をお迎えください.
タグ:統計
posted by Tad at 12:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 統計教育
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/181985228
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック