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2018年12月08日

おでんの話

今週は暖かい日が続いていましたが,この週末は寒いですね.こういう日はおでんなんか食べたくなります.実は,卓上の電磁料理器を最近購入したのですが,これがなかなかよく出来ているんです.この調理器には「味しみこみ」コースというがあって,メーカー(パナソニック)によれば「煮崩れを抑え,味がよくしみこんだ煮物ができる」とのことです.さっそくおでんで試してみたところ,確かに通常より短時間でも味が染み込んでいるようです.煮崩れしやすい大根などは長時間の煮込みは適さないのですが,これならば味の染み込み具合は十分です.おでんのタネによっても最適な調理方法が異なるのではないかと,最適化をしようと真剣に実験計画を検討していました.ですが,5時間足らずでこの状態に調理できるのであれば,全く不満はないのでその必要はありません.
未確認ですが,おそらくこの「味しみこみ」モードではパワーを抑えて温度を低めに制御しているのではと予想します.沸騰させずに加熱することで,煮崩れを低減するのでしょうけれど,このモードで味が早く染み込む訳ではないようにも思います.直感的には,出し汁に大根を漬け込んでグラグラ煮込んだ方が早く味が染み込むはずです.一方で,煮物は冷めるときに味が染み込むという話も聞いたことがありますし,真実はどうなのかを検索しているうちにブログ記事を書く時間を取られてしまいました.完全によそ様の情報だけでブログを書くのも躊躇われますが,本日はその報告でご容赦ください.
おでんということで最初に検索した紀文アカデミーには,火を止めてそのまま放置するおでんの作り方に対して下記が掲載されています.

意外に勘違いしている人が多いのですが、「冷めるときに味がしみ込みやすい」わけではありません。温度が高いほど味のしみ込みは速いので、火を止めてからのほうがゆっくりしみ込んでいきます。途中で火を止めているのは、煮くずれを防ぐためと考えられます。

回答されているお茶の水女子大学生活科学部食物栄養学科の佐藤先生は大学の研究者情報によれば「根菜類のテクスチャー及び味が同時に適度となる最適調理条件をシミュレーションの手法を用いて明らかとすることを目的としている。」そうです.勘と経験の賜物であった料理の世界にこそ最適設計が必要となるのですね.実験計画など実施されているのでしょうか.大変興味深いところです.
ネットには他にも,「煮物は冷ますと味がしみる」はただの勘違い? 分子調理学者が考える“最もおいしいおでんの作り方”などという記事もありました.こちらの石川先生は宮城大学の食品分子栄養学研究室で『料理と科学のおいしい出会い』という著書もあります.専門分野は分子食品学,分子調理学,分子栄養学とのことで,分子調理・分子料理ラボというサイトを運営されています.上記の記事で石川先生は次のようにとおっしゃっています.

「うま味、甘味の感じやすさが温度によって異なる一方、塩味はこのような変化が小さいことから、「(冷めた煮物は)より塩味をきつく感じるため」ではないか」

両先生のご意見では「味しみこみ」モードで味が(早く)染み込むことはないとのことです.そう感じるのは勘違いだそうですが,わたしの体感では確かにつみれなどは味が通常より早く染み込んでいるように感じたので,相入れません.ということで,更に調査を続行します.
その結果浮かび上がってきた別のメカニズムがありました.その研究はOLYMPOSが主宰するシゼコン(昭和35年から続いている小・中学生を対象とした自然科学観察や理科自由研究のコンクール)で参照できます.冷めるとき味がしみこむのはなぜか? という愛知県刈谷市立富士松中学校のお二人の研究です.大学の先生顔負けの素晴らしい研究だと感心しました.第46回入賞ということで今年が第58回でしたから,12年前の研究で彼らももう社会人になっているかもしれません.彼らの考察によれば,

食材は加熱時に軽くなるが、冷却時には重くなる。これは加熱時に食材の水分が抜け、冷却時に水分が戻るためで、このとき味の成分も食材の中に取り込まれ、味がしみこむ。

ということで,この仮説はわたしの体感とも合致します.このようなメカニズムは十分あり得るように思います.

食材を一定温度以上に加熱すると、味はしみこみやすい。

という考察を補足しますと,同じ煮物と言っても,大根のような根菜とつみれのような練りものでは大きな違いがあることに注意すべきです.植物である大根には細胞があるのでそのセルロースの壁を壊さないと味(煮汁)は浸透しにくいのです.このために皮を厚く剥いたり,一度高温で加熱したりする必要があり,「味しみこみ」モードでも事前に柔らかく煮ておくように説明書に書かれています.彼らの研究では,実験6と実験7でこの事実に迫っています.
ただ,食材が加熱中に軽くなるという観察結果だけでは,水分が抜けているということを証明できません.水分量を計測する必要があります.とはいえ,実際に澱粉の水分量を計測した論文があります.伊藤他,瀬木学園紀要 (4), 60-64, 2010,加熱条件の違いによる各種澱粉の水分量と吸湿性の変化によれば,少なくとも練りものでは確かに冷却過程での味の染み込みが期待できるのではないでしょうか.

暇ネタですいません.本日はこれにて.
posted by Tad at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記

2018年12月01日

大掃除と最適化

今日から12月ですね.12月と言えば師走.師走と言えば大掃除を想起するのが日本人です.新年早々を塵一つなく迎えたいという願いの顕れでしょうか.何かと忙しい年末にわざわざ大掃除しなくとも,新入学・入社を期に引っ越しする際に不要なものを捨てたりすることが多いでしょうから,大掃除をするならば3月のほうが合理的のような気もします.米国ではスプリングクリーニングといって大掃除は春と決まっていました.これは冬の間の暖房(石炭ストーブや暖炉など)の汚れをシーズン終了を機に家中を掃除したことの名残です.大掃除とまではいかないけれど,今でも春先になると机の上の整理・整頓をしたくなります.
 
という枕を置いて,以下強引に問題解決に繋げてみます.
 
『オトナ女子の整理術』新星出版社編集部 (編)という本を何気なく読んでいたのですが,気になったことが書かれていました.この本そのものは新社会人になる若い女性向けのマナー本とでもいいましょうか,30分もあれば読めてしまう本ですが,その中に「整理と整頓の違い,わかりますか?」というコラムがあって次のように書かれています.
 
整理は「いらないものを処分すること」,整頓は「必要なものを分類&片付けて整えやすくする」こと

この定義には少し異議があります.私の考えでは,整理は見栄えを良くすることを第一義とし,整然と揃えるための行為です.真っ直ぐに並べたり角を揃えたりといった見た目だけでなく,分類や分別もこの範疇に入ります.「整理」の理は道理の理であって曲がらず真直ぐという意味です.エントロピーを下げると言い換えてもいいかもしれません.一方,整頓は素早く作業できるということが第一義で,例えば,ものを所定の場所に戻したりする行為です.ですから,分別するのは「整理」ですが,それを廃棄するのは厳密にあは「整頓」です.ゴミ箱の中が所定の場所というわけです.整頓の頓の字に注目してみて下さい.仏教で修行の過程を経ずに直ちに悟りにはいることを頓証菩提と言いいますが,頓は直ちにと言う意味です.薬の頓服なども症状が出たら直ちに飲む薬のことです.頓服薬でない場合は,食後とか食間とか症状に関係なく飲む薬として内服薬を出されますが,こちらは口から導入するという意味なので,対にするならば外用薬でしょうか.閑話休題.
 
この本ではいろいろなケースについて整理か整頓かの例を示して,読者の理解を促していますが,書いた人が混乱しているようで,これを読むとむしろ混乱します.例えば,この本で「整理」の例としてあげているのは以下の行為です.
1.書類をいるものといらないものに分ける
2.机の上にあるものをとりあえずダンボール箱に移す
3.必要のない名刺を捨てる
4.終わった仕事の資料で,残しておくものと捨てるものを分ける
5.外出後にかばんの中を整理し,いらないものを捨てる

分別する行為,言い換えればエントロピーを低減するのが「整理」という私の定義に照らして上記の例を判定してみると,1と4は確かに「整理」です.ですが,3は必要性によって分類する行為は「整理」ですが,不要な名刺を保管せずに捨てる行為は「整頓」です.因みに,5は本当にこう書いてありました.整理するならば「整理」だろうと思うかも知れませんが,これは「整頓」です.不要なもの満載でも整理されている鞄はあり得ます.2では,机の上が綺麗にみえるならば「整理」とも言えますが,移動しただけで分類されていないのですから,「整理」とはいえません.部屋の片づけをする際に,とにかく一切を箱に詰め込むという人がいまして,彼曰く「何か探し物があれば必ずその箱に入っているから早く探せる」と豪語していましたが,ある意味でこれも「整頓」かもしれません.

一方「整頓」の例としては次の例があげられています. 
6.ファイルのサイズを合わせて並べる
7.メモをテーマごとにA4の紙に貼る
8.終わった案件の書類を処分する
9.机の引き出しに仕切りを入れて,文具を取り出しやすいようにしまう
10.帰る前に机の上をざっと片付ける
11.本棚の本を分類ごとに並べる
12.パソコンのファイルをテーマごとに分類する
13.使った資料を棚に戻す
分別して「整理」した後に,それを所定の位置に置く行為が「整頓」,言い換えればアクセス速度を向上させるのが「整頓」という私の定義に照らせば,これらの例は確かに「整頓」ですが,大きさで分類する行為などは「整理」でもあります.大きさの順に並べることの目的が見栄えなのであればそれは「整理」ですし,必要なファイルを探しやすくするのであればそれは「整頓」です.また,仕切りを入れるということの効果はものに所定の位置を与えるということで「整頓」で間違いありませんが,仕切りの効果は見栄えを良くする「整理」にもなっています.本を分類する作業は「整理」ですが,分類ごとに並べると大きさや色で揃わないことになるので見栄えはよくなリませんので,探しやすくなるという点からは「整頓」で正解です. 

「整理」と「整頓」はともにシステムの状態を変化させる行為と考えることができます.この場合,「整理度」と「整頓度」という数値特性でシステムを記述して,これらでシステムを多目的最適化することも可能です.この場合,例えば,机の上の状態(モノの位置)を最適化するとして,どのようなデータを取ればよいでしょうか.「整理度」であれば画像処理でモノの並びの直交度等を計算して数値化したり,「整頓度」のほうは人の位置からのものの重心位置までの距離の積算値,あるいは何らかの作業を仮定した距離指標を画像計測してもいいでしょう.でも,両者の定義は上述のように人によって曖昧ですし,仮にわたしの定義によったとしても数値化には主観が入ってきています.しかも,おおよそのところ両者は相関があるといえるので,そもそもこの二つを独立した特性と看破することが困難です.最高に整理された状態が作業効率が最大とは限らず,逆もまたしかりなので,多目的最適化が必須であることは間違いありませが,主観的特性では最適化の数値目標が不明確なので,どの状態が最適なのか決めるのが困難です.

こういう正体が良くわからない主観的特性を最適化するときの戦略の一つとして,フルモデル(二次までの交互作用と二次項をすべて)でカスタム計画を作ることがあります.異論はあると思いますが,わたしはこの場合の最適化基準はI最適でいいと考えています.その上でまずは実験し,そのサンプル(今の例では画像)から可能な限り数値を引き出すことを試みます.要するに実験が先で特性は後から考えるという方針です.最初から計測手法を限定せずに,あらゆる特性の候補を立てます.もちろん,実験単位が製品であるような場合に限ります.机の状態であれば画像を残しておいて,後からありとあらゆる画像計測を実施することになります.これら特性の候補についてモデリング,最適設計を繰り返して,意味のある結果が現れるかを考察しますと,思いがけないトレードオフが現れたりすることがあります.フルモデルは実験数が多くなるのが難点ですが,(少なくとも二次までの)交絡はありませんし,何が特性となるかわからないという状況ではとても有効です.

この人は考えるより先に手を出すのが好きだなと思ったときにはフルモデルの戦略をお勧めしています.一方で,考えることが好きで慎重なタイプの人には主効果のみで計画を立てたり,決定的スクリーニングを先行する戦略を指導しています.ですから,良いコンサルテーションにはまずその技術者のタイプを見抜くことが大切です.

いささか強引で落ちはつけられませんでしたが,今週はこれにて.
タグ:問題解決
posted by Tad at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 統計的問題解決