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2018年11月24日

統計とチンパンジー

今年のDiscovery Summitでは産業分野からの発表が増えました.産業分野からのコミッティ委員メンバーとして,ありがたいことです.企業に所属している技術者が社外発表するのは,会社によってはハードルが高くてなかなか困難なご時世ですが,それを乗り越えてでも価値があると考えています.

これはわたし自身の体験ですが,発表を意識することで考察のレベルがぐっと高まります.発表前になって粗を見つけてしまい大慌てで対策を考えたり,あるいは発表のストーリーを軌道修正したりということは度々あります.そこに価値があります.技術者としてもそのことには気づいているので,発表はしたいんだけど,という方がたくさんいらっしゃいます.Summitでもある企業の術者の方とお話ししたのですが,発表を検討していたんだけれど上司に「まだそのフェーズでない」と言われたとか.t分布の発見で有名なゴセットが,所属していたギネスビール社に隠れてStudentというペンネームで論文を発表したことはよく知られています.当時も「まだそのフェーズでない」と言われて彼が引き下がっていたら,確実に統計学の進歩は遅れていたことでしょう.とはいっても,Summitは学会ではないのでデータは作っても構わない(その旨は明示すべきですが)と考えていますし,技術背景も代替モチーフで説明しても何ら問題ありません.わたしが一昨年の発表で使ったメッキの事例は「ある半導体プロセス」の代替モチーフです.

Summitの場合,もう人つ発表者に恩恵があります.発表者には参加費無料(ポスターは半額割り引き)の特典があるのはご存知だと思いますが,実は前夜にプレナイト・ディナーが開催され,そこにも招待されるのはご存知でしたか.その場には米国からSAS社の幹部も参加していますので,いろいろとJMPについてに深い話も聞けます.わたしも今回,あるスクリプトの一般公開の可否についてスクリプトを書いた本人(テクニカルセッションに登壇したBrady Bradyさん)に直接尋ねることができました.因みに,現時点では公開されていないが,公開する方向で検討するというお答えでした.

プレナイト・ディナーにはコミッティメンバー全員に簡単なスピーチをせよとの依頼を頂いたので,以下のようなお話をしました.日本人が多数の場であり,米国SAS社の幹部には通訳がついているので,日本語でお話しすることも考えましたが,韓国からの参加者が3名ほどいらっしゃるので,英語でやってみました.久しぶりに英語を話すので,皆様に通じるかが不安でしたが,後で韓国からの参加者にお世辞でしょうが「Good presentation」と言っていただけたので言いたいことは理解していただけたようです.以下は覚えている限りの要旨を補足,修正しています.

スピーチここから
昨年,幸運にもJMP14についての early adopter version を試す機会に恵まれましたことに感謝しています.小さなバグを見つけたのでそれを報告し,製品版で修正されました.JMPのMac版に貢献できて幸せです.そのとき,JMP wish listにささやかな要望も投稿しました.未だに誰からも反応ありませんが,今でもMacbookのTouch Bar にtool メニューが欲しいと思っています.
これはJMPユーザーとしての要望ですけれども,現在は単なるユーザーとしてよりも,JMPのadvocatorあるいはエバンジェリストのような役目で立ち回る機会が多くなってきました.ことあるごとに,周囲にJMPを使ったDOEや統計分析の重要性を訴えていますが,多くの人からの反応はまだ薄いのが現状です.なぜあの人たちには,世の中の常識が理解できないのかについていろいろと考えるに,思い当たることがありました.
道具を使うチンパンジーのことをご存知かもしれません.いくつかのチンパンジーのグループは平たい石の上に種を載せ,ハンマーのような別の石でそれ潰して中身を食べます.野外観察によると,婚姻のため道具を使わないグループから道具を使うグループへ移動したメスのチンパンジーは生涯にわたって道具を使うことを覚えられないそうです.彼女の子供は道具を使うことを覚えるので,遺伝ではありません.京都大学の研究者によれば,チンパンジーは幼少期のある一定の時期に道具を使うことを学習しないと一生道具を使えないのだそうです.
この話を思い出して腑に落ちました.世の中の常識が理解できない人々は新人のときに統計ツールを使う機会がなかったので,もはや統計あるいはJMPを使うことができないのです.そこで私は戦略を変えました.理解できない人々を説得して時間を無駄にするよりも若い技術者を指導していくことが肝要です.明日のジャパンセミコンダクターの坂本さんの発表はその成果の1つです.皆様が明日の彼の発表にきてくださることを望んでいます.
スピーチここまで

因みにDOEの重要性や統計ツールの有効性が理解できない人々をチンパンジーと言っているわけではないですよ.この意味ではわたしたちも同じチンパンジーには違いなく,ただわたしたちのグループは道具を使うことができるというだけの違いです.現時点では道具を使うグループも使えないグループも共存しているわけですが,今後の環境の変化などで生き残っていくのは道具を使うグループであることは間違いなく,これはチンパンジーに限ったことではありません.
それではまた.
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2018年11月17日

事例検討会のご案内とMac版の最新情報など

Discovery Summit Japan 2118に参加された皆様,お疲れ様でした.わたしも前日の朝から高橋先生による「紙ヘリコプターを用いた実践型計画法入門」のお手伝いをしたりして,何かと動き回っていたので今になってどっと疲れが出ております.というわけで本日は短めに.
上述の高橋先生のセミナーは丸1日のセミナーなので,遠方からSummitに参加するために前泊される方も多いとのことで,Summitの前日に開催するという企画で昨年から始まりました.来年も開催すると思いますので,「実験計画って何の役に立つの?」と疑問に思われる方は是非受講してみてください.32,400円(税込)の有償セミナーでしたが,Summitの参加者には特別価格21,600円(税込)が適用されましたので,おそらく次回も同様な割引があると思います.講師の高橋武則先生(現在は慶應義塾大学)は今年もパワー全開のご発表をしていただきました.まだ今年のご発表については資料がアップされていませんが,昨年のご発表の資料がこちらにあります.このセミナーではブログでも度々言及しているHOPEアドインを使いますので,実験計画だけでなくHOPEアドインの基本的な使い方も学ぶことができます.受講後半年間という有効期限付きではありますが,個人で使うことができるHOPEアドインが入手できます.
セミナーの場で,HOPEアドインを継続して使いたいというご質問をいただくのですが,最も簡単なのは,隔月開催(今年は偶数月)のHOPE事例検討会という実験計画をもとにした事例相談会に参加していただくことです.参加費は無料ですが,自らの事例を持ち込みことが参加条件になっています.企業の技術者にとってはデータの社外開示はハードルが高いかもしれませんが,変数名や水準,更にはデータそのものを変えてしまっても全く問題ありません.必要最低限の技術背景の説明はしていただいた方がより適切な助言はできると思いますが,それさえも差し支えあれば伏せるか別のモチーフに変えるなどの工夫をしていただければ,ハードルを下げることができるはずです.上述のセミナーを受講しなくとも,検討会に参加することは可能です.わたしも検討会のオブザーバーとして出席していますので,ご興味あれば実施予定日等の検討会についての詳細をブログのコメントでお問い合わせください.
本日はここまでと思いましたが,短すぎるのでSummitで入手したMac版についての最新情報を一つ.わたしは以前よりJMPがMacBook ProのTouch Barに対応していれば便利だと考えています.ご存じない方のために補足しますと,Touch BarはMacBook Proの一部のモデルに搭載されているファンクションキーに代わる60×2170という細長い形状のディスプレイです.面積としては小さいですが,高精細なRetinaなので写真も表示できソフトによっては非常に有効です.個人的にはここにJMPのツールメニューがあれば便利だなと思っているのです.とはいえ,このTouch BarはMac本体とは別のOS(Apple WatchのOSのようです)で動作するので,ソフトメーカー側で作りこまなければなりません.Summitには毎回JMPのセールスとマーケティングのボスのJon Weiszさんが来ていて,彼はMacユーザーでもありますからこの機会に直訴してみました.そうしたら「私も欲しい」とのこと,プロダクトマネージャーのDaniel Valenteさんもその場にいたのですが,彼もまたMacユーザーで同意見でした.(今回の二人の掛け合いの講演は面白かったですね.)聞くところによると御大John Sallさんも最近Touch Bar付きのMacBookを買ったということで,おそらく彼がToch Bar対応を命じるのではないかともいっていました.
とはいえ,実現はしばらく先になる見込みです.なぜかというと最新のMac OSであるMojaveに搭載された「ダークモード」という暗い色調の表示スタイルが,JMPで問題となることが判明したからです.(そう聞いたのですが,自分もMajaveにしてJMP13を起動して見ましたが,特に問題は見あたらないですね.何か特別な操作や環境下での問題かもしれません.11/18追記:もしかしたらダークモードに対応したJMPの開発中に問題が見つかったということだったのかもしれません.以前からエディター系のソフトでダークモードをサポートしたものはありましたが,JMPの場合はグラフやデータの表示が見にくくなってしまうので,あまり現実的ではないような気もします.)ダークモードにしなければ問題ないので,普通のソフトメーカーであれば対応は後回しにされるところですが,John Sallさんが「fix it!」と命じたそうで,そうなるとそれがJMP開発の最優先になるのです.というわけで,今現在SASの開発陣がその対処に追われているとのことです.おそらくダークモードは12月リリースの14.2で対応されると予測します.ですので,Touch Bar対応は作業量の多さもあるので,遅ければJMP15になってしまうかもしれませんが,対応はしたい,とSAS USのトップが入っているので,Mac使いのJMPerの我々は心待ちにしていましょう.
Summitについてのいろいろについてはまた来週ということで本日はここまで.それではまた.
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2018年11月10日

ロバスト設計とMCDAアドイン

前々回の記事で,プロファイルの「誤差因子」に何らかの因子を割り当てると,等高線プロファイルに尾根線が描画されるというtipsを紹介しました.こうすることで,割り当てた因子の微分係数が特性に加わり,それにゼロ望目の制約を加えることで,その因子をノイズ因子としたロバスト設計が可能となります.本書にダウンロード添付したMCDAアドインはロバスト(パラメータ)設計のためのアドインですが,プロファイルでロバスト設計ができるのに,なぜ,このようなアドインが必要なのかという質問をいただきましたので,今週はそれにお答えします.
短い答えを言うならば,何をしてロバスト最適とするのかという定義が違うというのが一つの理由です.少し丁寧に説明すると,プロファイルにおいて,満足度の最大化で得られるのは誤差因子に対する応答関数の微分係数を0にする解です.例えば,次のような応答関数を考えてみると状況が良くわかります.因みにこの応答関数はサポートファイルの「ロバストデモ.jmp」から作ったものなので皆様もお試しください.ご覧のようにこの応答関数は二山あって,∂X=0の制約を課して満足度を最大化したのが次の図です.
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∂X=0の点は3つあるわけですが,ここでは特性値に最大化の制約をかけているので,左側の山の頂点が解として導出されます.因みに,最大化の制約を外しても,その上でトリップの数などの「最大化のオプション」を増やしても(デフォルトでは20ですが,例えばそれを100とする)安定して左側の山が解となります.JMPの満足度最大化の癖のようなものでしょう.他のオプションを変更して試行錯誤すれば,左側の山の頂点以外が出てくるかもしれません.もちろん,特性を最小化にすれば真ん中の谷がこのように検出されます.
94_2.png
しかしながら,一般的な工業分野でより重要なのは右側の山の頂点(付近)です.特性値の変動という点では右側の頂点にある方がより大きなXの変化を受け止めやすいからです.この解は,微分係数に制約をかけることだけでは得られません.このためには,ロバスト化の指標を(特性の変動の)範囲(Range)においた最適化が有効です.但し,この場合でも状況によっては右側の山の頂点は出てきません.
下に示した解は,Xの変動を5%とした場合に導出したロバスト解の例です.(このような単純な例ではMCDAアドインは適用が難しいので,この例ではHOPEアドインを用いています.)ここに示したように,特性の制約次第で色々なロバスト解を暴くことができます.
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この暴くというフィーリングが特に工業分野での最適化では大事です.最適解は1つではなく,それは周囲の状況(社会情勢,時代)やステークホルダーにより刻一刻と変わって行くからです.ですから最適解そのものよりもシステムが内包している最適解の可能性を暴くことにより深い「意味」があるのです.その「意味」をシステムのオブジェクトと捉えれば最適解の候補がインスタンスということになります.
何よりも多目的最適化においては可能な限りロバスト化の制約は緩めておいたほうが都合が良いのです.ユーザーはロバストだからという理由で製品を購入はしないからです.一般的に,微分係数を0とするのはかなり強い制約です.この制約に引き摺られて特性の真の最適解を見逃す危険があります.ロバスト化の制約を緩くして,ばらつきは所望の範囲に入ればOKというケースがより好ましい場合がほとんどです.もちろん,微分係数に範囲の制約をかけることでも構いませんが,想像するのも困難なので通常は数値指定はできません.
このような範囲によるロバスト化を実現するのが本書に付属したMCDAアドインやHOPEアドインなのです.両者の違いについては以前お話ししたかもしれませんが,重要なことなので回を改めて説明したいと思います.因みに,来週のDiscovery Summit Japan 2018に参加される方は,そこでMCDAアドインの応用例の発表がありますので,ぜひお聞きになってください.
それではまた.
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