UA-115498173-1

2018年11月10日

ロバスト設計とMCDAアドイン

前々回の記事で,プロファイルの「誤差因子」に何らかの因子を割り当てると,等高線プロファイルに尾根線が描画されるというtipsを紹介しました.こうすることで,割り当てた因子の微分係数が特性に加わり,それにゼロ望目の制約を加えることで,その因子をノイズ因子としたロバスト設計が可能となります.本書にダウンロード添付したMCDAアドインはロバスト(パラメータ)設計のためのアドインですが,プロファイルでロバスト設計ができるのに,なぜ,このようなアドインが必要なのかという質問をいただきましたので,今週はそれにお答えします.
短い答えを言うならば,何をしてロバスト最適とするのかという定義が違うというのが一つの理由です.少し丁寧に説明すると,プロファイルにおいて,満足度の最大化で得られるのは誤差因子に対する応答関数の微分係数を0にする解です.例えば,次のような応答関数を考えてみると状況が良くわかります.因みにこの応答関数はサポートファイルの「ロバストデモ.jmp」から作ったものなので皆様もお試しください.ご覧のようにこの応答関数は二山あって,∂X=0の制約を課して満足度を最大化したのが次の図です.
94_1.png
∂X=0の点は3つあるわけですが,ここでは特性値に最大化の制約をかけているので,左側の山の頂点が解として導出されます.因みに,最大化の制約を外しても,その上でトリップの数などの「最大化のオプション」を増やしても(デフォルトでは20ですが,例えばそれを100とする)安定して左側の山が解となります.JMPの満足度最大化の癖のようなものでしょう.他のオプションを変更して試行錯誤すれば,左側の山の頂点以外が出てくるかもしれません.もちろん,特性を最小化にすれば真ん中の谷がこのように検出されます.
94_2.png
しかしながら,一般的な工業分野でより重要なのは右側の山の頂点(付近)です.特性値の変動という点では右側の頂点にある方がより大きなXの変化を受け止めやすいからです.この解は,微分係数に制約をかけることだけでは得られません.このためには,ロバスト化の指標を(特性の変動の)範囲(Range)においた最適化が有効です.但し,この場合でも状況によっては右側の山の頂点は出てきません.
下に示した解は,Xの変動を5%とした場合に導出したロバスト解の例です.(このような単純な例ではMCDAアドインは適用が難しいので,この例ではHOPEアドインを用いています.)ここに示したように,特性の制約次第で色々なロバスト解を暴くことができます.
94_3.png
94_4.png
この暴くというフィーリングが特に工業分野での最適化では大事です.最適解は1つではなく,それは周囲の状況(社会情勢,時代)やステークホルダーにより刻一刻と変わって行くからです.ですから最適解そのものよりもシステムが内包している最適解の可能性を暴くことにより深い「意味」があるのです.その「意味」をシステムのオブジェクトと捉えれば最適解の候補がインスタンスということになります.
何よりも多目的最適化においては可能な限りロバスト化の制約は緩めておいたほうが都合が良いのです.ユーザーはロバストだからという理由で製品を購入はしないからです.一般的に,微分係数を0とするのはかなり強い制約です.この制約に引き摺られて特性の真の最適解を見逃す危険があります.ロバスト化の制約を緩くして,ばらつきは所望の範囲に入ればOKというケースがより好ましい場合がほとんどです.もちろん,微分係数に範囲の制約をかけることでも構いませんが,想像するのも困難なので通常は数値指定はできません.
このような範囲によるロバスト化を実現するのが本書に付属したMCDAアドインやHOPEアドインなのです.両者の違いについては以前お話ししたかもしれませんが,重要なことなので回を改めて説明したいと思います.因みに,来週のDiscovery Summit Japan 2018に参加される方は,そこでMCDAアドインの応用例の発表がありますので,ぜひお聞きになってください.
それではまた.
posted by Tad at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 統計的問題解決

2018年11月03日

紅茶の話

11月1日は紅茶の日だったそうです.ポッキーの日(正式にはポッキー・プリッツの日)がその形状から決められたように,紅茶の葉を数字の1に見立てて11月1日と決めたのだろうと思っていたのですが,日本紅茶協会によると,初めて外国での正式の茶会で紅茶を飲んだ日本人と言われる大黒屋光太夫が,女帝エカテリーナ2世に接見したのが1791年の11月と記録されているからだそうです.別の記録によれば1791年6月とも書かれていますが,とにかく由来はこのような歴史に基づいているそうです.大黒屋光太夫といえば,司馬遼太郎『菜の花の沖』にも登場したので,高田屋嘉兵衛とイメージがダブりますが.緑茶に慣れていたであろう光太夫の舌には紅茶はどのように感じられたのか興味があります.ロシア流の紅茶は甘いジャムを舐めながら(おそらく口に含んで溶かしながら)飲むそうなので,おそらく不味いと感じたと推察します.
紅茶の日ということで,日本紅茶協会が配布したポスターがtwittetで話題になっていました.「紅茶はインフルエンザウイルスを99.9%無力化します!!!」とのことで,みなさん99.9%というところを怪しまれているようです.紅茶のテアフラビンは抗菌作用があることで知られています.確かのど飴が売られていたと記憶していますが...あった,見つけました.このテアフラビンは紅茶の発酵過程で緑茶のカテキンが酸化して生成するポリフェノールです.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科天然物科学研究室のサイトによればその生成にはまだわかっていないことが多いと書かれています.このページの下の方にあるカテキンの参加経路など拝見すると,この式が理解できるというのはすごいですね.ここに書かれていますが,紅茶でなくても,緑茶にリンゴの皮やバナナスライスなどを入れることで,テアフラビンは生成されるそうです.緑茶にリンゴの皮を入れて飲めばインフルエンザ予防に効果あるのでしょうか?
さて.紅茶がインフルエンザウイルスを99.9%無力化するという主張を統計リテラシーに照らして検証してみましょう.まずは主張の根拠を探すことから始めます.行き当たったのが,紅茶協会のインフルエンザに対する感染伝播阻止効果という資料です.ここにはインフルエンザウィルスを何と99.999%無力化すると書かれています.どうやら培地上で100万個以上あったウィルスが紅茶を作用させたことで検出限界の10個以下になったからということが根拠のようです.検出値を検出限界で割り算して何倍というのは残留放射線のケースでもそうでしたが,よくある間違いです.検出限界はバックグラウンドの変動という確率的な現象を数値化したものという認識が欠けています.**%無力化するという表現も気になるところです.100個のものが1個に減ったことを無力化と呼んでいいものか.とはいえ,紅茶がインフルエンザ予防に何らかの作用がありそうだということはわかりました.ウィルスのスパイクに付着するというメカニズムも合理的です.但し,下に小さく書かれているように「ヒトでの実験は実施していません」ということは知っておくべきです.
そこで,ヒトを対象にした研究を調べてみました.見つけたのが,岩田雅史他(1997), 感染症学雑誌 第71巻 第6号, 487-494, 紅茶エキスのうがいによるインフルエンザ予防効果です.この論文で示されているのは,in vitroだけでなく約300名を対象としたin vivoの実験を実施している本格的な研究です.材料,対象および方法のところで,うがいには,紅茶(日東セイロン紅茶)を50°Cで30分抽出して0.5w/v%無糖液を作成した,などと書かれているのがジワジワきます.この論文でペア血清というのは,同一人物から一定間隔で採取した二つの血清のことで,ウィルス血清抗体価は過去にそのウィルスに感染した履歴の影響を受けるので,感染前後での抗体価を比較する必要があるのです.ですから,感染の有無を判定するためのペアであって対応があるということではありませんので注意が必要です.実験結果はtable3にまとめられていますが,ペア血清が得られた制御群125名中感染者が61名,実験群134名中47名..ってインフルエンザにかかり過ぎのような気がしますが,カイ二乗検定の結果は有意水準5%で有意性ありと結論しています.JMPではこんなふうになります.
93_1.png
93_2.png
検定結果は5%有意ではあるけれども1%有意ではない程度のようです.臨床試験にはよく5%有意であることのみ示した研究が多いですが,できるだけp値も併記して頂きたいですね.実験データから何らかの判断を下すのはときには利害関係がある研究者だけではなく,一般人の立場から判断したいからです.もちろん,そのために最低限の統計リテラシーをみっている必要はあります.
この研究では制御群は何もしていないのですが,本来は水や塩水でうがいをしてもらうべきでもあったと考えます.紅茶うがいは液体でうがいをすることに主たるインフルエンザ防止の効果があったとも考えられるからです.
以上を踏まえると,少なくとも99.9%という数字には惑わされない方が良いように思います.紅茶の効用をアピールしたいのは理解できるのですが,ワクチン嫌いなお母さんがいて,うちの子には紅茶飲ませてるからワクチン接種しなくて大丈夫,などというケースが多くなればそれこそインフルエンザ流行に拍車をかけてしまうかもしれません.
しかしながら,個人で臨床試験をするのは無理です.せいぜい自らが実験動物になるくらいですが,人間の場合は認知バイアスという思い込みもあります.そこで日常的な統計リテラシーの練習としてできることとして,仮説をたててそれを検証することがあります.紅茶を世界で一番飲む国はご存知でしょうか?先のロシアでもイギリスでもなく,実はトルコなのです.
それならばトルコではインフルエンザは流行しないのではないか?という仮説を立ててそれを検証してみます.WHOの2018年1月の報告,Influenza Update number 307. 22 January 2018 がありました.トルコはどこかと探すと黒海と南のエーゲ海・地中海に面しているあたりです.微妙な黄土色なのでinfluenza pisitiveが21-30%です.イギリスも30%以上ですから,しっかりとインフルエンザが流行しています.他にもトルコ日本国大使館が在留邦人に出した,トルコ国内におけるインフルエンザの流行についてなどから判断するに,紅茶のインフルエンザ予防効果は期待しすぎない方が良いようです.
今日は冷えますので,皆様もお気をつけください.それではまた,
タグ:JMP
posted by Tad at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 統計リテラシー