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2018年06月30日

ノンパラメトリック最適化

先週の続きです.トポロジー最適化をJMPで実施可能かという質問でした.一つの答えは寸法最適化に持ち込めばシンプルな事例では同等の最適化は可能,ということになります.寸法最適化にどうやって持ち込むかというとトポロジーを因子に持ち込むのです.即ち,考えられるトポロジーの候補を質的水準に設定します.例えば,二次元平面のレイアウトであれば,穴が一つ空いているレイアウトか二つ空いているレイアウトではトポロジーが異なるのでそれぞれを異なる水準として設定します.最適化することでどちらかのトポロジーが解として選択されるわけです.この手法には大きな問題があります.それぞれのトポロジーで,設定すべき設計因子が異なるような場合,想定する寸法が揃わないのですから,別々の計画にするしかありません.結局はトポロジーを設計因子ではなく前提条件(拙著では固定因子と呼びました)とすることになります.その上でトポロジー毎に別々の最適解を得て,それらを比較することになります.これは結局ごく普通の最適化設計ですね.想定されるトポロジーがそれほど多くなければこの方法でも最適化は可能です.しかしながら,厳密にはトポロジーは無数にあるので,これではトポロジー最適化とは言えず,真の最適解を得ることは難しいでしょう.
そこで,もっと厳密な意味でトポロジー最適化をJMPでやるにはどうしたらよいかを考えてみます.実用性はあまりないかもしれませんが,やってやれないことはありません.極シンプルなかなり限定された事例ににのみ適用できるとはいえ,それでも一応トポロジー最適化にはなってはいます.どうやるかというと,例えば,構造を最小単位の要素で表現することを考えます.最小単位の要素は2次元画像の画素(ピクセル)や3次元オブジェクトのボクセルのようなものだと思ってください.ピクセル位置に順番をつけ,それぞれのピクセルを設計因子と考えます.5x5ピクセルであれば25因子です.各々のピクセルに物質があるかないかをONかOFFかの二水準で構造を表現します.先の手法を通常の最適化としてパラメトリック最適化と呼ぶとすると,質的な因子で構造を表現するので,こちらの手法はノンパラメトリック最適化と呼ぶこともできるかもしれません.とはいえ,基本的に総当たりなので5x5の構造で512実験ですし,10x10ですと16384実験にもなります.もちろんカスタム計画で実験を圧縮することはできませんから,このままではJMPでやるには現実的ではありません.そこで,レイアウトの制約(例えば,穴の数を制約したり,同じ水準は斜め方向には配置しない(パターンが斜め方向に点で隣接する)などの禁則を設定するとぐっと実験数は減ります.と言ってもこのような制約をかけるにはJSLを組む必要があります.そこまでしてJMPで最適化する意味はないかもしれませんが,計画さえ組んでしまえば,JSLを使ってコンピュータシミュレーションと連成して特性等を計画テーブルに読み込むことができます.MATLABかPythonを使って例題を作って実際にやってみようと思っていたのですが,うまい例題が思いつきませんので,また後日ということにさせてください.(やってみたい事例があればコメントでお知らせください.)
今回紹介した手法はピクセルの順番をうまく設定すれば何らかの意味も取れるかもしれないので,面白い手法とは思っています.ですが,極小規模のシステムに適用する以外は現実的ではないので構造最適化というよりはレイアウト最適化といったほうが正確ですね.やはり本来はトポロジー最適化は専用の最適化ソフトを使ってソルバーと連成して力づくで実施することになるとは思います.ですが,こういうソフトは高価なのでそう簡単には手が出せません.システムを単純化してラフな最適化であればここで紹介した手法でも使えるかもしれません.例えば,回路基盤上の放熱板のレイアウトとかに使えないでしょうか?他にも色々な産業分野で使えるかもしれません.こういうことを考えるのが頼みにでもあります.私の経験では過去にこの手法が有効である事例が二つだけありました.
本日の話は文字ばかりだと分かり難くかったかもしれません.すいません.それではまた.
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2018年06月23日

トポロジー最適化

質問を受けたので今日はその話をします.こういった最適化がJMPで出来ますか?という質問です.リンクを踏みたくないという方のためにどういうものか説明しますと,CAEで実現した最低限の体積で最大の強度が出るような構造を持った機械部品で有機的なメッシュで構成されている,と言えばお分かりでしょうか.この手の工業製品を最近よく見かけるようになりました.これは構造最適化手法の一つのトポロジー最適化によるものです.原理は単純で基本形状からスタートしてそれにボクセルを付け加えたり削除したりしてその度に特性(重量と強度)を計算します.材料の分布を最適化すると考えるとわかりやすいかもしれません.当然ながら有限要素法によるシミュレーションソフトのようなソルバーとの連成が前提です.無数の繰り返し計算を必要とする計算負荷の大きい最適化です.腕力で最適化を達成するとはいえ,数値不安定現象(例えば,チェッカーボード現象といって材料が格子のように並んでしまう解が出てきたりします.)を如何に回避するかなど多くの研究がなされています.
この最適化では,構造が位相同値であることを前提としません.考え得る全ての構造が最適化の対象になります.ここで位相というのはトポロジーのことです.例えば,円板と円環はトポロジー的に異なる構造です.ですから,このような無数の穴が開いた構造も最適解になりうるわけです.上のリンクにある三次元構造は,強度と重量の多目的最適化の解になっているわけですが,従来の人間界では特異な形状かも知れません.とはいえ,自然界では普通にみられる構造です.これを書いていて思い出しましたが,この部品はアントニオ・ガウディのサクラダ・ファミリアを彷彿させますね.構造は自然から学ぶべきだとしたガウディの建築物とトポロジー最適化は同根であったわけですね.リソースの節約が基本的な戦略である生命の形態を顧みれば,自然界でこのような構造は合理的です.人間の吠骨も顕微鏡で拡大すれば複雑なネットワークを構成していますし,有孔虫という原生動物の殻を顕微鏡で見ると同様な構造が観察できるそうです.サンゴ礁の砂はこのような生物の脱け殻だということで,九州大学大学院の菅先生のHPに電子顕微鏡の写真が掲載されています.
トポロジー最適化は以前から知られていた手法でしたが,この手の構造物を最近よく見かけるようになったのは,PCやCAEソフトの高性能化に加えて,近年3Dプリンターの技術が格段に進歩したからです.今までは最適構造だとわかっていてもそれを実際に作るのが困難であったため,絵に描いた餅だったものがどんどん現実のものとなってきているのが現状です.例えば,ここに昨日まで開催されていた設計・製造ソリューション展の2015年(DMS2015)のレポートがあります.(私も毎年参加していたのでしが,今年は忙しくて行けませんでした.)この記事の最後の方にオートデスクがトポロジー最適化で作った椅子が紹介されています.おそらく,安定性や重量と強度などを多目的最適化したのでしょう.とはいえ,椅子であれば見た目や掃除のし易さなども重要な因子ですし,座りごごちなども忘れててはならないので,実用的な最適化とは言えないでしょう.工業製品の場合は修理も考えなければならないので,有機的な構造は不利です.とはいえ,今後はこれらの制約がないものには見た目はギョッとする構造が増えていくかもしれません.
前置きが長くなりましたが,JMPでトポロジー最適化ができますかという質問に戻ります.答えを先に言うと,上の椅子のような構造の最適化はできませんが,もっと単純な問題であれば工夫をすればそれらしきことはできます.最初に,最適化には三つの種類があることをリマインドしておきます.寸法最適化,形状最適化そしてトポロジー最適化です.形状最適化には少し説明が必要で,形状を最適化していれば形状最適化というわけではないのです.形状をいくつかの寸法で表現した場合,それは形状最適化ではなく寸法最適化で形状を最適化したというだけなのです.
寸法最適化の場合,標準形状を(非等方的に)アフィン変換(拡大,縮小,回転などの変形)した形状の中に最適解を探すイメージです.例えば,すり鉢様のコンタクトホールの形状を最適化するなどという場合,孔の上端,下端の直径及び深さという三つの寸法で規定される形状を最適化するだけならそれは寸法最適化に過ぎません.これに対し,位相同位体の中に最適解を探します.形状最適化では,孔の断面が例えば四角であったり深さ方向にボーイングしていたりといった複雑な構造の最適解もあり得るのです.これらの解は一定の寸法(群)では記述できません.
また,形状最適化の対象は風力発電の風車の羽根の断面ですとか,新幹線の形状などが多いので,流体や構造の重いシミュレーションを実施するソルバーと連成した環境で実施されることが多いです.トポロジー最適化では形状最適化における位相同値の制約を外すのです.即ち,ありとあらゆる構造の中から最適解を探します.当然ながら,ソルバー連成を前提とした手法です.そこで使われる最適化ロジックは,GA(Genetic Algorithm) 遺伝的アルゴリズムやSA(Simulated Annealing) 焼きなまし法などの手法です.JMPの満足度の最大化ではすでに応答関数が求まってから適用されるので,ソルバーと連成するということが基本的にできません.ですから,JMPで実施可能なのは寸法最適化とせいぜい一部の形状最適化どまりです.
しかしながら,限定したケースであれば,JMPを使った実験計画でもトポロジー最適化ができます.例えば,3x3のブロックで形成される二次元構造物を考えます.この構造物の総隣接ブロック数をY1,ブロック数をY2として,Y1を最大化,Y2を最小化する構造はどのようになるでしょうか.(但し,製造できるものに限ります.)寸法最適化であれば縦横の大きさをX1,X2のそれぞれ3水準で計画を立てればよいことはお分かりと思いますが,トポロジーが異なる穴あき形状は最適解としては得られません.本日は所用がありまして,続きは来週とさせていただきますが,それまでどのようにやったら良いか少し考えてみてください.
それでは,また.
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2018年06月16日

シンギュラリティなるもの

今の時期はいろいろな会社のカンファレンスが目白押しで,先日もIBMの統合イベントに参加してきました.去年まではクラウド系のイベントとWatson Summitという別のイベントを分散して開催していました.クラウドあってのWatsonで参加者も被るでしょうから自然な流れとはいえます.私自身はクラウドでシステムを構築するような仕事はしませんが,コンサルテーションでときどきこういった知識が必要になることもあります.前日にはデベロッパー向けのイベントも開催されて,私もその端くれとして参加しました.IBMはデベロッパーを育て,スタートアップ企業を支援する懐の深い会社と毎度のように感心します.今年はこれらのイベントを「Think」というキーワードのもとに一つに統合しました.
Thinkと言えばIBMがThinkPadをレノボに売却したのが2005年,あのときから今のクラウドの時代を見据えていたとすれば,先を予測することがいかに重要性なのかがわかります.とはいえ,7年間にわたって米IBMと一緒に仕事していたわたしにとって,昔のIBMが変わっていくのは寂しい気もしています.少し前に当時の同僚というかルームメイト(あちらでは執務環境として個室あるいは2人部屋が与えられていました.)と連絡とりあったら,彼はもう半導体には関わっていないでIT関連のマネージャーをやっているとのことでした.
少し前にBOXのイベントもあってそちらにも参加してきたのですが,そこにIBMが出展していたので「呉越同舟」なのではとも思いましたが,聞けばIBMはプライベートクラウドとパブリッククラウドとをわけて考えていて,それらを統合したハイブリッドクラウドが自社の強みと考えているようです.確かに大企業では既にクラウド上で構築したシステムが稼働しているでしょうし,セキュリティ面でも現実的なソリューションだと思います.
基調講演はこの4月に社長になったばかりのエリー・キーナンさんからスタートしました.前のポール与那嶺さんは米国籍の日系三世とのことで日英語ネィティブなので流暢な日本語で話されていましたが,キーナンさんは英語です.とはいえ大変聞きやすい英語で,しかも話し方がうまいですね.その後に登壇した某日本企業の講演が原稿を読んでいたのに比べると対照的でした.BOXのCEO兼共同創業者のアーロン・レビーさんの講演も自分の言葉で話していることがよくわかりました.何よりもお二人のスピーチは勢いがありました.これに比べると,日本人の講演はリズムが感じられません.自らの話し方についても反省するところあります.
セッションの講演内容はここでお話しするには少しズレているのでやめておきますが,一つだけ言及しておきます.電気通信大学大学院 人工知能先端研究センターの坂本真樹先生の「AIの進化・ビッグデータ活用がもたらす近未来予想」に興味があり,会場もキャンセル待ちが出るほど人気だったのですが,一般人向けの市民大学講座というような内容で,あのイベントにくるレベルの人には少し物足りない内容でした.第3次AIブームとかはどうでもいいので,ご自身が研究されている「感性」に関するお話を中心にして下さったほうが面白かったと思います.気になったことが一つ.シンギュラリティを説明するくだりで,AIが人間を超えるとかAIによって職を失うとかの危機感をあおるマスコミ論調が垣間見えたことが気になりました.
シンギュラリティは特異点ですが,この文脈で使うシンギュラリティはレイ・カーツワイルが使いだしました.この人,神出鬼没というか得体のしれない天才です.その昔,わたしが入社して初めてのボーナス(+α)で買ったのがKurzweilという電子ピアノでした.Kurzweilはカーツウェルと呼ばれていたので最近まで気付かなかったのですが,Wikiによればなんでもカーツワイルさんがスティービー・ワンダーに乞われてKurzweilの電子ピアノを開発したのだそうです.YAMAHAやRoland,KORGでなく,なぜこのメーカーのものにしたかと言うと,圧倒的にピアノの音質が良く,しかも鍵盤のタッチが生ピアノに大変近かったからです.このKurzweilが故障して修理してくれたサービスマンにMacintoshを勧められて,それ故にJMPユーザーになって今に至るということを思い起こせば,カーツワイルさんがいらっしゃらなければこのブログを書いていることもなかったかもしれません.
私は自分のセミナーでもAIの話をすることがありますが,そこでシンギュラリティの話は避けて通れません.そこではシンギュラリティ(技術的特異点)とはAIが人間の知能を超える時点(2045年とされています)であるというマスコミの論調は間違いであること,正しくは人類の能力が無限大になる(特異点)であって,それにより生物的進化速度を技術(AI)で加速することなのだと言っています.著作をよむと彼は非常にオプチミストとわかりますから,AIは人類に明るい未来をもたらすものであって脅威にはなり得ないとお考えでしょう.Ray Kurzweil(2005),The Singularity Is Nearにはシンギュラリティ以降の世界として,脳のスキャンによるデジタル化とかナノボットで臓器が不要になるとか現時点ではSFの技術が出てきますが,五感全てを組み込んだ完全没入型のVRというのは最近ではSFとも言えないようになってきました.人間は騙すのは簡単ですから.
人間とAIの競争という点で言えば,人間がAIに囲碁で負けたと聞いて驚いても,人間がF1マシンに100m走で負けたと聞いて驚きますか?という点につきます.いわば負けるのが当たり前と思います.但し,消費電力は人間の脳が20WでGoogleのアルファ碁が25万Wといいますから,単位電力当たりでは間違いなく人間の勝ちです.最近はボタン電池で稼働する低消費電力マイコンなどもありますが,20Wでは一手指すのにどれくらい時間がかかるのか.名人戦のリーグ戦では5時間ある持ち時間もNHK杯戦では「なし」ですから.AIが電気的なスイッチでなく,人間の脳のような化学的スイッチを採用したコンピューターに実装されれば,そこらへんも変わってくるかもしれません.けれどこのときは,人間並みの遅さになるように予想します.もちろん,今の人間の脳が最適解というわけではないのですが..
私のセミナーでは,シンギュラリティにはじまって強いAI(あるいはAGI)へと展開し,今の時代の技術者はどうあるべきかをお話ししているのですが,今日は時間になったので,そのうちここで書こうと思います.
本日は完全に無駄話でした.それでは,また.
posted by Tad at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記