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2018年04月28日

Feynman先生の教え(後編)←追記あり

先週の続きです.以下もう少し意訳を続けますが,もう一度言っておきます.時間をかけて訳していませんので,おそらく聞き間違いや誤訳があるかもしれません.趣旨は大きく外していないはずですが,一つの参考に留めていただき,何かしら間違いあればご指摘いただけるとありがたいです.

この(ミニーおばさんの)例でもわかったように,なぜを問い続けると物事はより深くより面白くなっていくんだ.(the more I ask why, the deeper a thing is, the more interesting it gets.) 「なぜ滑ってお尻を打ったの?」というようにより深く問い続けることもできるよ.重力が関係しているのは間違いないけど,今はそんなことどうでもいい.こんなふうにどんどん続いていくんだ.例えば,なぜ二つの磁石が反発するのかと君が問うとき,多くの異なったレベルの答えがある.それは君が物理の学生か予備知識のない一般人かによるんだ.もし何も知らない人ならば,僕が言えるのは「磁石は反発するもので君はその力を感じる」ということだけなんだよ.

長いので少し端折ります.この後,Feynman先生は磁気力と性質が似ている電気力を例えに出して,手が椅子を突き抜けないという日常的にありふれた現象には電気力の反発が存在していることを指摘し,そのなぜを説明するには多くの人が受け入れることを説明するところから始めなければならないと説いています.そして,説明は続きます.

もしもっと技術的に説明してもいいならもう少し深くできるけれど,初等レベルなら,僕に言えるのは,磁石の反発や電気的磁気的な誘引力はこの世界の要素として捉えるべきものの一つということだけさ.僕には君に馴染深い何かで誘引力を説明できないな.例えば,磁石はゴムバンドのように引き付け合うといったら,君を騙すことになる.なぜなら,それらはゴムバンドでつながっているわけじゃないからね.そんな説明をすればすぐに困ったことになってしまう.君が好奇心旺盛なら,なぜゴムバンドがまたもとに戻ってくるのか質問するかもしれないね.僕はゴムバンドで説明しようとしているまさにそのものである電気力の言葉でそのことを説明するだろう.そう,僕は酷く騙してるんだよ.だから僕は君になぜ磁石が互いに引き付け合うのかという問いにそれはそういうもんだと答えるしかないんだ.そして,それはこの世界の要素の一つであって,電気力,磁力,重力などなど,そしてそれらはいくつかの部分なんだ.もし君が学生だったらもっと深く説明することもできる.磁力は電気力と非常に密接に関係していることや,重力と電気力との関係は未だにわかっていないということなどを説明できるだろうよ.だけど僕には本当にうまく,いやどんなふうにも君がもっと馴染みのあるもので磁力を説明できないんだ,だって君が馴染み深い何かを僕は知らないからね.

Feynman先生はwhyという行為の無限性を指摘しています.この世界は因果関係の無限性で構築されているのです.whyに答えるには質問者のフレームワーク内で理解されている知識・概念だけを用いて説明しなければならないのです,自省も込めて言うのですが,多くの人が自らのフレームワークを理解していないままにwhyに捕らわれてしまっています.この状況では,whyから別のwhyが生じ,結局は何もわからないということになってしまいます.フレームワークには理解しているという現在だけでなく,そこまでは理解したいという未来も含んで構築されていなければなりません.社会人の場合,学歴や経歴,更には学習意欲によってこのフレームワークのばらつきが大きいので,質問に答える側としても,どこからどこまで説明すればよいかの見当がつきません.とはいえ,質問に答える側が自分であれば,このフレームワークの存在を意識していさえすれば,それを把握することは比較的容易なはずです.
一方で,フレームワーク内のwhyは徹底的に追求するという姿勢も重要です.特に統計学ではわかった気になる傾向が強いように思います.統計学を勉強する状況で例を引いてみます.例えば,独立した母集団からサンプリングした二つのサンプルの平均の差の標準誤差は,それぞれのサンプルサイズをN1,N2,分散をS1^2,S2^2として次式で示されます.(MathTypeをpngにして挿入しただけなので美しくはなくて恐縮です.)

042818_f1.png

追記ここから
一番上の式に添字のタイプミスがあります.正しくはこちら.
修正.pdf
追記ここまで

なぜこの式になるのかを説明するのに,二つのサンプルの分散の情報が混ざっているということを教えるだけで十分な人もいれば,σ1,σ2をそれぞれのサンプルの母分散の標本推定として,
042818_f2.png
であることを示し,σ1=σ2=σとして,
042818_f3.png
を導出してはじめて理解できる人もいます.統計を使うだけでいい人ならば公式として最初の式を覚えて,そこでwhyを打ち止めにすべきでしょうし,統計学を理解して学びたい技術者ならば,フレームワークはより深いレベルに展開すべきです.もしも,最後の式のσがなぜ最初の式のように与えられるかが分からなければ,平方和とは何かに立ち戻って理解しておかなければなりません.ここでは平方和の定義から一歩進めて,共通平方和への概念の拡張が必要です.
このように,whyを追求してはいけないということではなく,whyを追求するにしても,社会人の統計学は独学で学ぶことが多いので,このwhyの構造を意識しておくことが重要です.ほとんどの場合は,上の公式(の存在)を知ってさえいればそれで十分ですし,JMPを使うのであれば,それすら忘れても問題解決には全く障害となりません.問題解決を優先する状況では,そうでないとどんどん根元に降りてそこから戻ってこれなってしまい,結局問題解決のタイミングを逸してしまうことがあるのです.自らのフレームワークを知って,その中でwhyを追求していくという割り切りが社会人の独学には欠かせない,そう考えています.この意味では生徒は自らのフレームワークを知ること,教える側では個々の生徒のフレームワークを把握することが肝要なんです.

それではまた.
タグ:統計学
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2018年04月21日

Feynman先生の教え(前編)


統計学を勉強する技術者に私が最初にアドバイスすることがあります.それは,勉強する過程で生じる様々な疑問に対する心構えについてです.疑問が生じるのは一般的には良いことと考えられていますが,その疑問が足枷になってしまうこともあるのです.この足枷を外すには,疑問には階層があるという認識が重要です.重要なことは,その人によってはそもそも理解することさえ許可されていない疑問もあるということです.その上で何が理解することが許されていて何が許されていないかを知る必要があるということを知ることが大切です.
こう書くと誤解を招くかもしれませんが,これは物理学者のRichard Phillips Feynmanの受け売りです.彼が二つの磁石の間に働く力について質問をうけたときの回答がYouTubeにあります,統計に限らず科学を勉強するものにとって重要なポイントをついていて,有名なのでご存知の方もいらっしゃるかもしれません.URLを貼ろうとも思いましたが,著作権が不明でしたので「Feynman, Magnets」というキーワードで検索してみてください.このビデオでは質問に答える側の立場から,非常に乱暴を承知でまとめると.質問者のレベルを知らなければ答えることは難しいと言っています.社会人の場合,基本は独学ですから質問をするものと受けるものは同じなので,私も(統計に限らず)勉強をしていて,ときどきこの教えを思い出す状況に遭遇します.Feynman先生の英語は比較的聞きやすいと思いますが,この記事を書くにあたってもう一度YouTubeで聞き直してみました.調べても和訳されている方が見つからなかったので,英語が苦手だという方のために以下に前半部分だけ意訳してみます.私の英語力では聞き取りにくい箇所もあったので,細かいところでは間違いあると思います.参考に留めてください.何かしら間違いあればご指摘いただけるとありがたいです.
状況はおそらく新聞か雑誌の取材かはわかりませんが,おそらくその類の記者から磁石が反発したり引き寄せ合ったりする現象について質問されるところから始まります.会話が交錯して聞き取りにくいですが,質問者をI,FeynmanをFとして冒頭のやり取りは以下のようです.
I「二つの磁石の間に感じるものは何なんです?」
F「それはどういう意味だね?」
I「そこに何かがあるんですよね?何かがそこにあるという感覚がありますよ.」
F「そりゃ何かを感じるだろうよ.それより僕の質問に答えてよ.何が知りたいんだい?」
I「この二つの金属の間に何が起こっているのかが知りたいんですけど.」
F「反発しあってるんだよ.」
I「それがどういう意味なのか,なぜそうなるのか?これってもっともな疑問だと思うんですけど.」
磁石の反発についてその現象を高名な物理学者であるFeynmanであればうまく説明してくれるだろうと期待した質問者でしたが,取り合ってくれないのでいささかムッとしたようです.「そんな愚問じゃないと思うんですけど」というところでしょうか.これに対して以下ミニーおばさんが病院にいるという例を示して Feynmanの長い説明が続きます.第一声は「もちろん,素晴らしい質問だよ.だけどね,なぜそれが起こったのかと聞くときは,いかにそれに答えるのかが問題なんだよ.」と言っています.どういうことなんでしょうか.以下は意訳しますが,重要なポイントは下手な訳ではニュアンスがつたわらないかもしれないので,英語を聞き取ったものも併記します.

例えば,ミニーおばさんが病院にいるって,なぜか?氷ですべって,お尻を打ったからさ.地球人ならこの説明で満足するけど,宇宙人ならお尻を打ったら病院にいくということは知らないよね.お尻の骨が折れてたときに,どうやって病院にいったんだろう?ミニーおばさんの旦那さんが病院に電話して人をよこしてもらったのさ.これですべて納得できるよな.このように,なぜかということを説明するとき,それが真実だと思う何らかの枠組みを前提としなければならないんだ.(When you explain a why, you have to be in some framework that you allow something to be true. )そうでないと,永遠に「なぜ」を問い続けなくちゃならなくなる.なぜ旦那さんは病院に電話したの?奥さんの幸せのためさ.いつもそうだというわけじゃないよ,酔っ払ってたり,喧嘩したりしてるときには.奥さんの幸せに無頓着な輩もいるからね.

そして,君は世界を理解するってこと,そしてそれが複雑なものだってことが面白く感じられるようになり出すんだ.もしも君が何かを追い続けようとすれば,どんどんと深みに嵌まっていくことになる.(If you try to follow anything up, you go deeper and deeper in various directions.) 例えば,もし君が「なぜミニーおばさんは氷の上で滑ったのか?」と問うたとしよう.そりゃ,氷が滑りやすかったからさ.誰だって知っている.このとき,君は「その答えで満足です.氷は滑りやすい,これで説明つきました.」と答えることもできるし「なぜ氷は滑りやすいのか?」と問い続けて深みに巻き込まれていくこともできるんだ.なぜなら,氷のように滑りやすいものって多くはないからね.濡れていたりぬるぬるしているの以外で滑りやすいものはなかなかないよ.固体は滑りやすいかといえば氷がそうなんだけど,氷の上に立つと圧力で氷が一瞬ほんの少しだけ溶けて瞬間的に水になって,その表面で滑り易くなる.なぜ氷の上で滑り易くなって他のものではそうならないかというと,水は凍ると膨張するからなんだ.圧力をかけるとこの膨張をもとに戻そうとして氷は溶けることになる.圧力で氷を溶かすことができるけれど,他の物体では凍るとヒビが入るから,圧力をかけても個体のままでいたいというわけさ.なぜ水は凍ると膨張して他の物体はそうならないのか?僕にはこの質問には答えられないけれど,それが如何に難しい質問かということは言えるね.君が理解することを許可されているものは何なのか,何が理解され知られることが許されていて,何が許されていないのかを君は知ってなければならないね.(You have to know what it is that you are permitted to understand and allowed to be understood and known, and what it is you are not.)

ブログに費やす時間は基本的に30分までと決めているので,最初に紹介したFeynman先生の言葉が出てきたところで,本日はここまでとし,続きは来週にさせてください.それではまた.
タグ:統計
posted by Tad at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 統計教育

2018年04月14日

Discovery Summit Japan 2018

2018年11月16日(金)に例年と同じグランド・ハイアット東京で,今年もDiscovery Summit Japan 2018が開催されます.去年のDiscovery Summit Japan(以下DSJ)は口頭発表に加えてポスターまでも欲張って妙に慌ただしかったせいか,私にはなにか最近の出来事のようにも思えます.それで,もうそんな時期かと軽く驚きましたけれど,発表の申し込みが開始されました.申し込みサイトはこちらです. 申し込み期限は2018年5月31日(木)17:00となっていますので,あと一月半ありますから,連休中に構想を練る時間もあります.特に産業分野からの申し込みをお待ちしています.
というのも,私は今年もコミッティのメンバーを拝命していて,私の昨年の発表の冒頭にお話ししましたように,DSJでも米国並みにもう少し産業分野をからの発表を多くしたいと画策しているからです.去年は特に顕著でしたが,例年DSJでは医薬分野からの発表が盛んで羨ましいかぎりです.医薬分野では,StatViewというMacで有名な統計ソフトがあったのですが(後にWindows版もできましたけど),このソフトは医薬・生物関係の分野で人気がありました.因みに,同じ頃SPSSは社会科学分野で主流だったように思います.そのStataViewはver.5を最後にSAS社に買収されてクローズした経緯があります.その際に多くの医薬分野のユーザーがJMPに鞍替えしたため,JMPにはそもそも医薬関係のユーザーが多いのではないかと推察しています.
そうはいっても,この事情は米国も同じなので,DSJでの発表件数の日米間の差は単に日本の産業分野に元気がないことの表れなのかもしれません.社外発表の敷居が高いという日本の産業分野の事情もあるでしょう.もちろん,社外発表についてはいろいろと決まりがあるのはどこも同じですが,いろいろな場で技術者の皆さんとお話しして思うのは,産業分野では会社側だけでなく発表者も社外発表のメリットを正当に評価できていないように思います.
メリットはいろいろあります.ここでそれを話すよりも体感したほうが早いです.端的にいうと,いつかやらなければならないと思っていたこと(やりたいと思っていたこと)が,確実に進みます.自分を追い込むこと以外にも,発表したいアイデアが確実に改良されます.アイデアがあれば,まずは申し込んでみてください.データそのものや事例の詳細は開示する必要ありません.むしろある程度一般化して話していただいた方がありがたいくらいです.応募に必要な情報は,発表タイトル(50文字以内)発表者プロフィール(250〜500文字)に加えて,発表概要を250〜500文字でお願いしています.内容は学会発表と違ってDSJはJMPユーザーの集いですから,論文の査読のようなことはしません.我々コミッティの役目はあくまでも内容をチェックして,偏りのないプログラムを構成することです.コミッティとしては,よほどのことがない限り発表の申し込みを採択はすれども棄却することはありません.但し,発表の枠はありますから定員はあります.それをオーバーした場合,ポスターに回っていただけるかをお願いすることはあるかもしれません.
申し込んでみたいという方がいらっしゃいましたら,「このような内容でも発表できるのか」とか「どこまで技術内容を伏せてもいいものか」等々,いつでも相談に乗りますのでご連絡いただければありがたいです.こんなことがやりたいというレベルでもかまいません.
本日は別のことを書く予定でしたが,急遽DSJ発表のお誘いに変更しました.それではまた.
タグ:JMP
posted by Tad at 13:01| Comment(0) | TrackBack(0) | JMP