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2019年01月12日

万年筆と最適化設計

実は最近アクセス記録を見てしまったので,このブログにも結構な人がいらしてくださることを自覚してしまいました.あまり迂闊なことも書けないなと思いを新たにしていますが,本日は暇ネタを書かせてください.
わたしは日常的に万年筆を使っています.他の筆記具ではどうにも書きにくいのです.滑らかだと定評のある水性ポールペン(ジェットストリームやアクロボール)でさえ,筆圧をかけなければ書けないので,長い時間書いているととても疲れます.ボールペンは構造上ペンの先の衝撃がダイレクトに手に伝わってくるのでそれも疲れる理由の一つです.そこで万年筆がわたしには疲れにくい筆記具なのです.
司法試験の筆記試験にも万年筆がよいということで,専用の万年筆が売られていたりします.何しろ数時間もの間ひたすら書き続ける過酷な試験ですから, 疲れない筆記具は必須のようです.そもそも法務省の司法試験に関するQ&Aにも,「指定の筆記具は黒インクのボールペン又は万年筆(ただし,インクがプラスチック製消しゴム等で消せないものに限る。)」とあります. 
この万年筆にも重要な多目的最適化がなされているのですが,本日はこの話をしたいと思います.万年筆のペンポイントの材質は何だかご存知でしょうか?メーカーのロゴと一緒に14kとか18kと小さく書かれているのを見たことがあるかもしれませんので金と思われているかもしれませんが,この文字が書かれている部分はペン先です.ニブとも言いますが,その先に小さい金属(球体)が溶接されていて,そこが紙にあたって書けるのです.この金属の球をペンポイントと言って,材質はイリドスミンというイリジウム(Ir)合金が一般的です.オスミウム(Os)共々硬い金属の代表です.何しろこの二つの元素は全元素中一番目と二番目に比重が大きいのです.イリジウムとオスミウムの天然合金をオスミリジウムと言い,その中の白金属元素鉱物の一つがイリドスミン(Rutheniridosmine) と呼ばれてペンポイントの材質として使われてきました.(因みに,白金属元素鉱物の命名に関する決まりが変更されて,イリドスミンは現在は自然オスミウムと呼ぶのが正式ですが,万年筆業界ではいまだにイリドスミンで通っています.)
ペンポイントに必要な特性はまず摩耗に強いこと,すなわち硬いことです.イリドスミンのモース硬度は6−7です.白金の硬度が4−4.5で,ガラスの硬度が5ですからかなり硬い合金です.国内でもイリドスミンの需要が高まった頃でしょうか,あの宮沢賢治が岩手県で砂金の中に入っている白い物質がイリドスミンであることを発見し,イリドスミンの採鉱を目指していたが叶わなかったということです.佐藤隆房(2012)「宮沢賢治ー素顔のわが友」,富山房企畫そういえば,宮沢賢治の詩集「春と修羅 第二集」の三六六に鉱染とネクタイという詩があります.「こゝらのまっくろな蛇紋岩にはイリドスミンがはいってゐるぞ」という一節があるのを思い出しました.
話が逸れました.このペンポイントですが,現在では必ずしもイリジウムとは限らないそうです.その材質は企業機密とのことですが,成分は分析すれば簡単にわかることなので製法などにも色々ノウハウがあるのかもしれません.何れにしてもペンポイントの硬度が高ければそれだけ摩耗に強いということで,長持ちする万年筆になります.(もちろんペン先の交換は可能ですが,凝った軸でもない限りおそらく買い換えた方が安いです.)その長持ちするペン先のトレードオフにあるのが書き味です.
万年筆の使い始めはペンポイントがまだ尖っていて,その部分が紙を引っ掻くことで,インクが滲み字幅が太くなっています.この時点ではまだ書き味も悪く,こんなものかと使うのをやめてしまう初心者もいます.ですが,我慢して使い続けているうちに角がとれ,自分の書き癖に馴染んだ形状にペンポイントが摩耗していきます.この時点で一番細く書けるペンポイントになります.更に書き続けていくと,徐々に摩耗が進み字幅は太くなっていきます.
字幅が太くなると,一定のインク容量あたりの書ける線の長さが短くなります.この線の長さを一定の字の数で換算したものを字数曲線と呼ぶんだそうです.横軸に時間,縦軸に字数で万年筆の特性を表現できるわけです.この字数曲線は上に凸の関数になっていてその頂点の近傍で万年筆(のペン先)は線幅が最も細くなり書き味もこなれてくることになります.
万年筆メーカーによってこの頂点をどの時点に設計するかがとても重要です.日本の万年筆メーカーは実用性を優先して硬いペンポイントになっているので,万年筆がこなれてくるまでに時間がかかります.ハードに使っても半年はかかるでしょうか.通常使用であれば,おそらく数年はかかります.一方,外国メーカーではもっと柔らかいペンポイントが付いているように思います.最初からユーザーに優しい万年筆なのです.しかしながら.末長く良い状態を保てるのは国産の万年筆です.しかも,国産メーカーのペン先はロバストです.外国製のように当たり外れがほとんどありません.性能として優秀な国産万年筆ですが,それが売り上げに結びついているとは言いがたい状況です.それはなぜかというと新品時の書き味で購入評価をされてしまうからです.
文房具屋に万年筆を買いに行くと,試筆に新品を出してくるお店がありますが,そういうお店ではどうしても外国メーカーの万年筆が好まれるようです.何しろ最初から書き味が良いのですから.大きいお店では,パイロットやセーラーの試し書き専用の万年筆がありますが,それらは何ともこなれたいい書き味になっていたりします.国産メーカーも最初から柔らかいペンポイントの万年筆を出せばいいとは思うのですけど.国産万年筆のペンポイントが硬いのは,漢字を書くための細い線幅にはペンポイントを小さくする必要があり,摩耗もそれだけ大きくなるからではないかと考えています.
耐久性(耐摩耗性)と書き心地の二つの特性を最適化した製品が万年筆であって,国内外の多くの万年筆メーカーのそれぞれの製品がその最適解の一つなのです.このように,製品には複数の特性があるのが普通です.ぜひ皆さんの製品にも複数の特性を見出してみてください.今まで見えなかったユーザーのニーズが見えてくるはずです.
本日は暇ネタですいません.
それではまた.
タグ:問題解決
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2019年01月05日

初JMP

今年もよろしくお願いいたします.本年最初に何を書こうかとニュースを漁っていたところに目に留まったのがこちらの記事です.
Windows 10 tops Windows 7 as most popular OS
リリースは3年前でしたのにまだWindows10のシェアはまだ4割にも満たないんですね.あっという間に9を飛ばして10に入れ替わったこともあってWIndows8のシェアが低いのは何となくわかります.8.1が出たときのゴタゴタが尾を引いているのでしょうか.因みに,WIndows9というネーミングが飛ばされたのは,( Windows95や98であることを認識するために)「Windows9」 という文字列を前方一致で検索するコードが存在するからと聞いたことがあります.
実はこのブログにもアクセス解析の機能が備わっています.アクセス数はたまに見ることはありますが,おまけ機能なので正確ではないし,何よりもせっかく来てくださる方の情報を覗くのは趣味ではないので見ていません.そもそもわたし自身がかなり強力なプライバシーフィルタをかけているので主義に反する行為なのです.とはいえ,このニュースを読んで,このブログの訪問者のOSシェアに興味を持ったので,調べてみました.情報を皆様に開示するならば許されるかなと思っています.
クローラもカウントしているので,この数字の信頼性は低いものの,予想よりも多くの方に訪れていただいているようで何となく安心しました.個人の日記とはいえ訪問者が誰もいないというのは寂しいものです.
念のために補足しますと,ブログをお持ちの方はご存知と思いますが,この「さくらのブログ」のような個人向けブログサイトの「アクセス記録」ではブラウザの自己申告情報を集計しているだけです.どこから来たのかといういわゆるリファラもその一つですが,サーバーのログを解析することまではできませんので,どの検索エンジンから来たか程度しかわかりませんし,わたしも通常はアクセス記録を覗かないことにしていますのでのでご安心ください.
さて,12月のアクセス記録からOSシェアを計算しました,全アクセス数から「不明」を除いて,モバイル環境の方も結構いらっしゃるので,PCとモバイルとに分けます.データを目前にすると何かしてみたくなるのがJMPerの性分です.手始めに,見やすくするためにOSはWindows,Mac OS,Linuxに三分類して実際のOSシェアとを比較してみました.その結果がこちらです.

1.png

圧倒的にWIndowsユーザーが多いのは会社から訪問してくださっている人が多いからと推察します.更にWIndowsの種類で可視化してみますとこのような結果になりました.書き忘れましたが,Net Applicationsというのは毎月1日にブラウザとOSの世界中の利用状況を発表している米国の調査会社です.以前から調査結果に疑問をお持ちの方もいらっしゃるようですが,他に引っ張ってこれるデータもないので.参考

2.png

この円グラフの上が本ブログで下が世界平均です.一見してWin8ユーザーが多いのはなぜでしょうか?検定にかけてみるとやはり当ブログの訪問者のOS分布は歪んでいるようです.

3.png

本来は日本のOSシェアと比較すべきところです.モバイルOSではiOSのシェアが日本では世界よりも高いと聞いていますし,実際このブログでもiOSユーザーの方がAndroidよりも多いです.
新年早々あまり役立つ情報は得られませんでしたが,初JMPということでお許しください.それでは.
タグ:JMP
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2018年12月29日

第二刷の修正箇所について

先週予告しましたように本日は『JMPではじめる統計的問題解決入門』の第2刷で修正箇所についてご報告します.今回は増刷なので,改訂版と違って通常は大幅な修正はできませんが,気付いている限りの修正をオーム社に無理を通してお願いしました.複数のページにまたがるような大幅な変更(例えば注釈を追加,削除したりも含みます)は断念せざるをえませんでしたが,以下ではそれらも交えて報告します.ですので,以下の記述は第1刷をお持ちの皆様のためのもので,第2刷での実際の記述とは異なっていることご注意ください.(念のため既にご報告している修正点も掲載しています.)

1.p11の下のエクセルデータの図を下図と差し替えています.(左のデータの右側が50代になっていますが30代の間違いでした.)
1-1.png 1-2.png

2.p65の2行目のJMPくんの台詞で「降水量をY軸に,平均気温をX軸に...」を「降水量をX軸に,平均気温をY軸に...」に修正しています.(XとYとを入れ替えています.)

3.p80の下から4行目には「JMP実習」の見出しをつけても良かったのですが,この後にも「JMP実習」が来るのでここは明示していません.「以下では...」から実習が始まるものとご理解ください. 

4.p85の2行目のJMPくんの台詞で,「表示形式」のところで「データ点はオフ」を選択するとデータ点が見えるよ...」を「...データ点が消えるよ」に訂正しています.

5.P106下から5行目のJMPくんの台詞の前に以下を付け加えています. 
「計算式が入力できたら,行メニューから「行の追加」で「追加する行数」に100をいれて『OK』するのを忘れないでね.これで所望のデータテーブルができるから,「グラフ>曲面プロット」でグラフを描いてみようよ...(後略)」

6.p125の脚注は「...ではなく,Binomial(二項分布)という用語の頭文字にすぎません.」に修正しました.Binormalはタイポなので注意.

7.p131の下から11行目のJMPくんのセリフを「前略...この場合,「ユーザ定義」にチェックをいれてから14と入力して『計画の作成』を押すと計画が作成できるよ.そうしたら,実験計画のウィンドウの下にある実験の順序を「左から右へ並べ替え」に変更して『テーブルの作成』を押してみて.」と訂正しました.

8.p131の下から8行目の計太くんの台詞「テーブルができたぞ.」の後に次の脚注を入れようと思ったのですが,上述の理由で断念しました.
「カスタム計画は乱数をもとに作成されるので,ここで作成した計画は必ずしもサポートファイルと同じ計画になるとは限りませんのでご注意ください.」
その代わりに,P131 下から11行目のJMPくんの台詞を以下と差し替えています.
「実験の誤差を考慮してそれに1を加えた14が実質的な最小実験数だよ.「ユーザ定義」をチェックして14と入力してから『計画の作成』を押してみて.毎回同じ計画ができるわけではないから注意してね.」

9.p140ページの統子ちゃんの台詞を「...モデルでRMSE(Root Mean Square Error)が最小に...」に修正しました.RSMEとあるのはタイポですので注意.

10.P202 3行目の計太くんの台詞以降ですが,この部分はサンプルデータを作るのにとても苦労しました.いろいろと試行錯誤を繰り返しているうちに,本書に採用したデータを先祖返りしたデータで上書きしてしまうというミスをしていました.申し訳ございません.そこで今回は現在の(先祖返りした)サンプルデータに合わせて本文を修正しています.今回は時間がなくこのような手を打ちましたが,オリジナルのサンプルデータの方が面白かったので,第1刷をお持ちの皆様のためにいずれサンプルデータの方を修正したいと考えています.

P202 3行目の計太くんの台詞以降を次に差し替えてください.
計太 「そういえば,二人ともいつも同じブースを使ってたかも.」
JMPくん 「それも「グラフビルダー」で見てみよう.」
10.png
計太 「なるほど,実験者による違いは実験ブースの違いが原因かもしれないな.何か問題があったのかな?」

11.上と同じ理由で,p207以降の「EMPシステム分析」のグラフ・テーブルを以下と差し替えています.数が多いのですが,出てくる順に並べてあります.(サムネール表示がぼやけてますが,クリックすると別ウィンドウで開きます.)

P207上 11-1.png

P207下 11-2.png

P208上 11-3.png

P208中 11-4.png

P208下 11-5.png

P209上 11-6.png

P209二番目 11-7.png

P209三番目 11-8.png

P209下 11-9.png

P210上 11-10.png

P210下 11-11.png

12.p209の一番下のJMPくんの台詞の最後に以下の脚注をつけようと思ったのですが,修正の制約で断念しています.
*JMP14では「バイアスの比較」「繰り返し誤差の比較」というより分かりやすい名称に変更されています.

13.p229 4行目の計太くんの台詞 「触媒量」を「触媒」に訂正しました.

14.p229 8行目の統子ちゃんの台詞
「このように入力すればいいのね」を「このようにチェックを入れてから,「触媒」と「反応時間」の現在の値にそれぞれ0.005と8を入力すればいいのね」と訂正しました.

15.p255 7行目 目をつむる → 目をつぶる
目を瞑るというのは間違いではないですが,何となく.

16.p259の4行目の「...のままで構いません.」で改行して,以降の「通常の...作成しました.」の2行を次の段落と差し替えようと思ったのですが,帰って読者を混乱させてしまうかもしれないと思い直し,制約もギリギリだったこともあって修正は見送っています.

更に,2018年11月時点での最新版のMCDAアドイン(バージョン180214)では,最適化アルゴリズムに改良が加わったために,本書に掲載している開発版のアドインで計算した最適解の一部で,それとは異なる結果が得られます.そもそもJMPによる最適化のしくみから,微妙な環境(JMPのバージョンやOS等のPC環境,更には統計モデルや最適化設計の状況)の違いによって必ずしも同じ最適解が得られるとは限りません.使用するOSの種類やJMPのバージョン全ての組み合わせの結果を網羅することは現実的でないため,ここに掲載した最適解は参考に留め,最適解を得る流れを追ってください.
このように最適解がいろいろと出てきてしまうことに不安を持たれるもしれません.この状況はソフトのバグというわけではなく,どのような状態を最適とするかというプログラム上の定義(の違い)によるものです.「最適化はJMP(PC)がやるものではなく技術者自らがやるものだ」ということを認識して頂くために,ノイズ因子が複数あるというあえて複雑な問題を事例にとって,敢えてこのような実情を露呈させています.しかしながら,通常はこのような状況に遭遇することは多くないので安心してください.

17.p280 3行目のJMPくんの台詞に以下を追加しています.
それから最適化の赤三角から「予測変数の表示設定」を実行して「MIN」と「MAX」とにチェックをいれよう.

18.P280の二つの設計画面を以下と差し替えました.
18-1.png
18-2.png

19.p288の16行目 「Y 予測式」を「予測式 Y」に訂正しました.

20.p291の3行目 JMPくんの台詞に以下を追加しています.
「...してみようよ.それには設定画面で「予測式Yu1」と「予測式Yu2」を「予測式」に「Zu」を「ノイズ因子」に割り当てるんだ.」

21.p294 下から2行目のJMPくんの台詞で,「設定画面で「予測式Yu1」を「予測式」に,..」は「設定画面で「予測式Yu1」と「予測式Yu2」を「予測式」に,..」に訂正しています.

22.p295の下から6行目のJMPくんの台詞「...得られない解*32だよ.」と脚注を挿入しています.

*32 この解はWindows版のJMP13上で開発版のMCDAアドインを用いて出しましたが,現在ダウンロードできる最新版のアドインでは違った最適解が得られます.この状況はソフトのバグというよりも,どのような状態を最適とするかというプログラム上の定義の変更によるものです.どちらが正しいというわけでもないので,以下の説明での辻褄を合わせる都合から,そのまま掲載していますのでご注意ください.

23.ここまでページ順に番号を振っていましたが,期限間際に以下の修正を追加したことを思い出しました.すいません.

P47 下から8行目 「花粉Data2.jmp」を「花粉データ2.jmp」に訂正.
P53 3行目 「データの吟味は...」を「「列ビューア」で標準偏差が0の「Time」列と,二つのデータ行を「非表示かつ除外」にできましたか.結果を...」に修正しています.
P300 6行目 『統計モデルによるロバストパラメータ設計』の閉じ括弧を二重括弧に訂正しました.

皆様にはいろいろご不便おかけして申し訳ございませんでした.心からお詫び申し上げます.その他にも何か不具合を見つけられたならば,ぜひご一報ください.本書やJMPについての質問でも構いません.以前もお話しましたように,コメントに開示しないように書いてくださった方のコメントは非公開にしていますので,ご安心ください.

それでは皆様良いお年をお迎えください.
posted by Tad at 19:00| Comment(2) | TrackBack(0) | お詫びと訂正

2018年12月22日

100回目

気がつけば100回目の投稿です.ここを訪れていただいている皆様に感謝いたします.そもそも『JMPではじめる統計的問題解決入門』のサポートブログとして始めたので,ここまで続くとは思ってもみませんでした.書きたいことがそれほどあるわけでもないのですが,継続すること目指しました.毎週土曜日に書くと決めたのは,継続しやすいからです.不定期にするとどうしても途切れてしまうものです.特に無理をしているわけではないのですが,なんとか続いていているので我ながら感心しています.
ボツにした原稿を掲載したり,頂いたいご質問にお答えするなどの間をその週に読んだ本やニュースについての駄文でつなぐというスタイルが固定してきてからは,土曜日の朝,目覚めると「さて今日は何を書こうか」などと考えるようになりました.時間はあまりかけられないことも多いので,読み返すと文章が荒削りであったり,時としてロジックがおかしかったりする点も読み返すと見つけること珍しくありませんが,基本はブログという日記なので自分ではこれでよしとしています.
ここのところ『統計的問題解決入門』と関係ない話ばかりで恐縮していますが,本日は二つのお知らせがあります.一つは本書が重版になったことです.ありがたいことで,皆様はもちろん関係者一同に感謝します.本来はもう少し早くお話ししても良かったのですが,ここを訪れていただいている皆様は本書を既に購入してくださった方が多いと思うので,重要な情報ではありませんので.
とはいえ,これから本書を購入してくださる方もいるかもしれません.DSJ2018で私の前の座席に座っていたH社の女性のかたや,口頭発表されたのでお名前を出してしまいますが,筑波メディカルセンターの上條先生にも「初版のミスを訂正した重版がもうすぐ出るのでそれまでお待ちください」とお話ししていましたが,改めてご報告しますと,12月5日に重版出来(じゅうはんしゅったい)となりました.
いつ頃書店に並ぶかというと,一般書店では第1刷の在庫が残っているかぎり第2刷は入荷しないそうなので不明です.Amazonでも最近在庫が切れていたのは重版の影響もあるのかもしれませんが,今オーダーすると第2刷が手元に届くのかは不明です.確実に第2刷を入手したい場合はオーム社の直販をご利用ください.もしもオーム社の直販を利用されるのでしたならば,著者割引きも効くようですので,ブロクのコメント欄でご連絡いただければと思います.
実は昨日重版が手元に届いたばかりなので,重版での訂正箇所は来週のブログで公開します.既にこのブログでも明らかな間違いは訂正を投稿していますが,その他にも補足した部分があるので,本書をご購入いただいた方にも今しばらくお待ちください.

もう一つのご報告は,次回のJMPer’s Meetingでの講演が決まったことです.先のDSJ2018(以下Summit)で登壇したジャパンセミコンダクターの坂本さんにじっくりとお話しいただくという企画なのですが,わたしもその前座にお話しすることになりました.ジャパンセミコンダクターという会社はご存知ない方も多いかもしれませんが,東芝の壮絶な社会実験の果てに大分工場からジャパンセミコンダクターへと独立した会社です.リニアラインセンサーやアナログ半導体などの多様な製品を生産していて,現在ではおよそ3割が車載製品です.
さて,例年のSummitでは口頭発表は25分枠と50分枠があったのですが,今年は全てを25分枠に統一しました.この変更は発表の申し込み後に決めたことなので,50分枠で申し込まれた方には発表を25分へ短縮するという無理をお願いして,申し訳なかったと思っています.コミッティのメンバーとしてこの場でもお詫びいたします.とはいえ,できるだけ多くの方に発表していただくための措置なので,皆様快く了解くださりました. ですが,やはり話し足りないという方もいらっしゃって,そういう方々にはJMPer’s Meetingの場で時間をとってお話しいただくという場を提供いただけることになりました.坂本さんの発表(半導体デバイスにおける特性分析及び動特性評価とその最適化について)も内容を切り詰めるのに苦労したようで,後半のJMPのデモも端折らなければなりませんでしたが,今回はデモを交えて話してもらえそうです.今回の坂本さんの発表が第一弾ですが,次回以降も他の講演者のお話しをじっくり聴ける機会が続くようです.
Summitでの坂本さんの発表は実験計画の事例としてかなり実務に踏み込んだ内容でしたので,他の製造業の参加者にも好評だったと聞いています.Summtに参加できなくて聞き逃した方には良い機会ですね.わたしは,というと前座として坂本さんの事例で使ったMCDAアドインについてお話しします.本書の第5講についてのセミナーはいつか開催したいと思っておりますが,まずはMCDAアドインとはどういうものなのか知りたいという方はぜひご参加ください.90分程度の時間をいただいていますので,実験計画における動特性設計やロバスト設計の意義などから初めて,そのためのツールしてMCDAアドインを紹介するという流れを考えています.
日時ですが,まだオープンになっていないのをこの場でリークするのはまずいかもしれませんが,とりあえず2月22日(金)の午後は空けておいてくださいとだけ口を滑らせます.講演後にはお茶とお菓子でネットワーク作りの場も設けますので,皆様とお話しできるのを楽しみにしています.
それではまた来週.

2018年12月15日

コミュ力とは何か?

ブログとはそもそも日記のようなものなので,思ったことを書けばいいのでしょうけれど,思ったことをそのまま発信するのは気が引けるものです.結果として誰かを批判するように取られてしまうのを恐れるからです.そんなわけで,あまり時事ネタは取り上げないようにしているのですが,たとえ少しでも統計に関わっていれば話は別です.
今週目にとまったのは,順天堂大学の入試問題についてのニュースです.朝日新聞デジタルによれば,「順大入試、女子を一律に減点「コミュ力が高いため補正」」という見出しで以下のように報道されていました.

 順天堂大(東京都)は10日、医学部入試をめぐって設置した第三者委員会から「合理的な理由なく、女子や浪人回数の多い受験生を不利に扱っていた」と指摘されたと公表した。

具体的には,2次試験の面接で女性の点数に負の下駄を履かせていたとのことです.その理由が「女子はコミュニケーション能力が高いため、補正する必要がある」からとのことです.補足すると,この差は「18歳の時は女性が高くても、20歳で一緒になる」のだそうです.この「客観的データ」に基づいて,18歳の男性の不利にならないように面接評価を補正したとのこと.この「客観的データ」というのは,大学側が第三者委員会に提出した,その旨の医学的検証を記載した米大学教授の1991年の論文と書かれてあります.朝日新聞がその論文を確認したところ,面接時のコミュニケーション能力について論じた部分は見当たらなかったそうです.記事には論文についての詳細はありません.「有料会員になると続きをお読みいただけます。残り:660文字/全文:1311文字」とのことで,660文字にそれが書かれているのかもしれません.無料会員でも1日1本まで有料記事が読めるのですが,朝日新聞のサイトはトラッカーが多い(確認できるだけでも5つ)のであまり立ち寄らないようにしています.(因みに,読売新聞も毎日新聞も1トラッカーしか確認できません.)
どうやって「コミュ力」のような得体の知れない能力を医学的なエビデンスの検証対象としての俎上に載せるのか興味があり,わたしもその論文を読んでみたいと思ったのであちこち調査して,ようやくその論文を見つけました.幸いオープンになっています.Cohn L.D.(1991), Psychol Bull. Mar;109(2):252-66 Sex differences in the course of personality development: a meta-analysisという題名からもわかるようにメタアナリシスの論文でした.著者はテキサス大学のCohn先生です.
この論文を読むのに必須な前提知識がありまして,それがLoevenger’s Systemと呼ばれる自我発達過程についての理論です.子供から大人へと登る階段とでもいいましょうか.1976年の論文(Ego Development: Conceptions and Theories)では衝動的から自立的に至る7つの段階(定義の違いによっては9つまたは10)が説明されています.重要なのはこの理論では各段階と年齢とを紐付けないので,大人でも衝動的段階に留まったままの人もいるかもしれないということです.
Cohn L.D.(1991)では,この階段の登り方に性差があるかを調査した65の研究(113の比較データ)をメタアナリシスにかけたものです.どのように自我発達段階を数値化したかを読んでみると,WUSCT(Washington University Sentense Completion Test)という,文の出だしを与えてそれに続く言葉を考えて文章を完成させるテストを基にしているようです.例えば,”If my mother…”に続いて,“…hadn’t married so young and had less than five children…”などと書いたとして,それをマニュアルに従って採点します.このテストには色々なバージョンがあるようですが,ジェーン・ロエビンガー先生の考案したオリジナルでは36ある文章完成問題の総合点数TPR(Total Protocol Rating)スコアという1つの指標で発達段階を表現します.メタアナリシスでは男女間の差を,効果サイズ(Hedges’gが計算できる情報がなければCohen’d)で統合的に示したのです.エビデンスレベルとしては高い研究と思います.JMPでどうやってこれらの指標を求めるかについてはいずれこの場で書きたいと思います.
その結論としては,女性の方が男性よりも青年期においては(自我発達段階において)進んでいるが,大人になるとその差は消滅するというものです.言葉を変えれば「女の子の方がおませだ」という一般に言われていることを科学的に検証したといえます.
問題は,この結論から大学入試(高校卒業)の時点で女性の方がコミュニケーション力があると言えるかということですね.いくつか思ったことを列挙します.
1.発達段階とコミュニケーション力の関係については重要なキーワードがありますが,1つはego centrismです.自己中心主義と訳すこともありますが,今の文脈ではピアジェが児童心理学で用いた自己中心性のことです.よくあげられるのが,幼い子供が目をつぶって相手からも自分が見えなくなると思い込むという例です.即ち,自分の主観的視点でしかものを見れないという幼児期の特徴を意味しています.ego centrismをコミュニケーション力の指標とするならば,自我発達段階が進んでいる女性の方が(ある年代までは)コミュニケーション力はあるとは言えます.一方,Cohnの論文には,先行研究の知見として”perspective talking appears no greater in girls than in boys.”という記述があります.perspective talkingとはthe ability to accurately label the feelings of another person(他人の気持ちを正確にラベル付けする能力)と書いてありますが,日本語では視点取得と訳され,相手の立場に立って考える対人的な共感的過程のことです.この能力は男性よりも女性の方
いずれにせよ,Cohn論文には,コミュニケーション力という言葉が直接出てくるわけではありません.この点は朝日新聞の指摘通りなのですが,問題はそこにはなく「自我発達段階が進んでいるからコミュニケーション力がある」というピース(エビデンス)なしには順天堂大学のロジックは破綻しているということです.探せばあるのかもしれませんが,それなしにはロジックの中抜き論法にすぎません.特に初段に権威を持って来ればその威力は絶大だという例になっています.
2.WUSCTはジェーン・ロエビンガー先生がそもそも女性を対象として開発されたテストであって,男性や日本人に対しての妥当性は別の議論になります.男性向けのマニュアルや日本人を対象としたSCTも開発されていますが,それは90年代後半になってからのことなので,Cohn論文の対象となった研究で発達段階の(少なくとも日本人の)性差を議論するのは疑問が残ります.
3.性差があったとしても,それは大人になれば消失するという結論です.それでは,どの時点で消失するのかについて考察もされていますが,高校生の間は差は安定しているもののgrade13(米国では18−19歳)で急激に減少すると示されています.もしかしたら,この発達段階の性差のダイナミズムは大学入学という節目による環境の変化を反映しているのかもしれません.何れにせよ,20歳で消失するというのではなく,20歳では既に消失(低減)しているというのがより正確です.従って,面接試験を受ける女性(特に一浪でもしていたら)不利を被っているだけということになります.
4.仮に,順天堂大学のロジックの根拠を認めたとして,そもそもコミュニケーション力が高い方が医師に向いているのではないでしょうか.不公平をもたらすというのであれば,面接を止めれば良いのでは?
5.計測技術の技術者としてこれだけは譲れないのが,補正という言葉は使わないでいただきたいということです.減点とかペナルティとかハンディキャップとか他に適切な言葉は色々ありますから.

この件についてわたしがどう結論するかはここには書きません.とはいえ,朝日新聞の記者が読んだというだけで納得せずに,自分でソースを探し出して自分で理解しようとしました.勉強になったこともたくさんあります.これが統計リテラシーの基本だと思うのです.

それではまた来週.

この記事を書いた後に奥村先生のtweetがありましたのでご参考まで.

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